人類進化の参考図書・資料

   神戸松蔭女子学院大学 全学共通科目「現代の教養II(進化から考える人間らしさ)」に関する参考図書・資料を紹介します。授業では幅広い内容を取り上げていますが、ここでは人類の進化について学ぶための本やAV資料を紹介します。神戸松蔭の図書館所蔵資料を中心に紹介しています。         2019年7月
 


「つい誰かに教えたくなる人類学63の大疑問」 日本人類学会教育普及委員会 講談社 2015年 

「最初の人類はどのような姿だったのでしょうか」「人類はいつから衣服を着るようになったのですか」といった人類進化に関する基本的な疑問だけでなく、「牛乳を飲むとお腹がゴロゴロするのはなぜですか」といった人類学とは関係なさそうな疑問、「ヒトとサルのこころの働きに違いはありますか」「異性の好みはどのようにきまっているのでしょうか」といったヒトの心に関することまで幅広く取り上げています。それぞれの質問に対する人類学者の回答を、最新の知見も交えながら2、3ページにコンパクトにまとめています。
 

 人間の悩みを人類進化から考える

「ヒトはなぜ難産なのか」 奈良貴史 岩波書店 2012年 

岩波科学ライブラリーの一冊で、一般向け入門書です。ヒトが他の動物に比べてお産がたいへんな理由を、ヒトの身体の特徴とその特徴を生み出した人類進化から説明した本です。お産の仕組みを詳しく知ることができますし、人類進化の基礎知識も得ることができます。
 

「肥満は進化の産物か?」 颯田葉子 DOJIN選書 2011年 

人間が肥満してしまうのは、余分な栄養を脂肪として蓄えるためであり、食物不足がいつ起きるかわからない時代に人類にとって必要な能力として進化しました。そして、人類の歴史はごく最近までそういった時代でした。こういった進化論的視点から病気について考えることの必要性は広く認識されるようになっており、進化医学と呼ばれています。この本は肥満だけを取り上げているのではなく、色覚異常、痛風、高血圧などについて、遺伝子とその進化がどう関わっているか解説しており、副題の「遺伝子進化が病気を生み出すメカニズム」の方が内容をよく表しています。
この本の特徴は、原因となっている遺伝子の塩基配列、合成されるタンパク質と酵素、その代謝過程を、最近の研究成果をもとに紹介している点です。ここまで分かっているのかと驚かされます。そのような詳しい解説を理解する基礎として、最初の3章をゲノムと遺伝子、遺伝の法則と進化論、人類進化の説明に充てています。
多くの人が興味を引くようなタイトルをつけていますが、生物学に関心がない人にとっては詳しすぎる本かもしれません。高校生物が好きだったという人には、学び直しにもなりますしお勧めできます。

 

 人類の進化

「人類進化の700万年」 三井誠 講談社現代新書 2005年

著者は読売新聞科学部記者。新聞連載記事がもとになっているので、もともと専門外の人にも分かるように書かれています。それだけでなく、著者自身が人類進化研究に魅力を感じ、その魅力を多くの人に伝えたいという気持ちで書かれています。
出版時点(2005年)の研究成果をもとに、人類誕生と考えられる700万年前から時間に沿って人類進化を解説していますが、加えて、人類進化研究に不可欠な年代測定法と遺伝子分析についても、その限界も含めて詳しく解説しています。
人類進化の入門書として適した本です。

 

「ビジュアル版 人類進化大全」 クリス・ストリンガー、ピーター・アンドリュース 悠書館 2008年 

"The Complete World of Human Evolution"2005年の日本語訳。ロンドン自然史博物館の研究者たちが、人類進化についてその道筋を詳しく紹介しています。加えて、化石発掘や分析、DNA分析といった調査方法など関連する知識も幅広く紹介しています。
何よりもこの本の特徴は、日本語タイトルにビジュアル版とあるように写真、解説イラストを豊富に掲載している点です。全てのページに写真かイラストがあり、図鑑と呼んでも差し支えありません。代表的な人類化石の写真や復元図だけでなく発掘現場や石器の写真も豊富で、具体的に人類進化について学ぶときに一度は見ておくべき本と言えます。

 

「図説 人類の進化」 デビット・ランバート 平凡社 1993年 

"A Field Guide to Prehistoric Man"1987年の日本語訳。人類と他の動物の違いからはじまり、サル類の特徴、初期人類、人類の世界への広がり、文明の始まりまで、豊富なイラストともにわかりやすく解説しています。原著出版年はやや古いのですが、充分に役に立ちます。上で紹介した「ビジュアル版 人類進化大全」よりわかりやすく書かれており、入門書としてすぐれています。
 

「ヒトの進化 七〇〇万年史」 河合信和 ちくま新書 2010年        

ヒトの進化は、最近ではDNAの分析による研究も進展しています。しかし、やはり研究の中心はやはり化石発掘です。この本は、2010年時点までに明らかになっている膨大な人類化石発掘の成果をまとめ紹介しています。成果をまとめるといっても、近年は様々な人類化石が発見されており、人類の歴史は猿人→原人→旧人→新人という単純な図式ではとてもとらえきれません。著者は、無理にまとめるのではなく、様々な化石資料と様々な解釈の可能性をていねいに紹介しています。人類には過去様々な種類がおり、その系統関係はますます混沌としていることがわかります。
著者はまた、化石発掘に莫大な努力と情熱を注いできた研究者たちと研究者間の論争についても紹介しており、著者の知識の広さ・深さと研究者たちへの敬意が感じられます。人類化石について詳しく紹介されている分、内容はやや専門的になっており、新書であるが入門書とは言えません。教科書的・入門的な知識ではあきたらず、より詳しく知りたい人におすすめの本です。

 

「DNAで語る 日本人起源論」 篠田謙一 岩波現代全書 2015年        

人類進化はアフリカで始まり、ほとんどの人類種の化石はアフリカのみで発見されています。いつ頃どのようにして世界中に広まったのでしょうか。そして、現生人類であるホモ・サピエンスは、外見の多様性にもかかわらず、同一種と見なされてしかるべき共通性を保持しているのははなぜでしょうか。これらのことを解説した本は多数出版されていますが、人類の世界へ拡散は、簡単には説明できない複雑な出来事であり、現在進行形の研究分野であるため、分かりやすい解説は難しいのが実情のようです。
この本は、日本人起源論というタイトルですが、本の前半部分では、ホモ・サピエンスがアフリカでいつ頃誕生し、いつ頃アフリカから世界へ広まったのかを解説しています。研究成果に基づいて詳しく書かれていますので全部読み通すのは難しいかもしれません。その場合は、第1章−第3章を読むだけでも構いません。DNA分析とそれがどのようにに人類進化を解明したのかについて知ることができます。

 

 心の進化

「ヒトの心はどう進化したのか」 鈴木光太郎 ちくま新書 2013年        

「人間らしさ」すなわち他の動物とは異なる人の特徴を、進化という観点から考えた本です。
新書であれば、しっかりとした内容でわかりやすいことが望まれますが、そういった本を書くことは簡単ではありません。この本の著者は「オオカミ少女はいなかった」などのすぐれた心理学の本を書くとともに、進化論の視点から人間について考えた本を多数翻訳出版しており、該博な知識をもとにわかりやすく書くことを実現しています。入門書としてお勧めできます。
この本は3部構成ですが、まず第1部で人類の進化をコンパクトに説明して、道具、火、言語といった、人類を他の動物から分かつ重要な発明について述べています。そういった、誰もが挙げるであろう人類の重要な発明に加えて、第2部では家畜、スポーツの起源を狩猟採集生活に求めています。そして第3部では、ヒトの心の特徴に焦点を当てています。ヒトの心の特徴はいくつか挙げることができるのですが、特に「心の理論」を取り上げています。第2部と第3部は著者の関心が反映されており、その分生き生きとした記述になっています。

 

「協力と罰の生物学」 大槻久 岩波科学ライブラリー 2014年        

人間が高度な文明を築きあげたのは協力することができたからです。天才的な人がいたとしても、効率のよい工場生産や便利なインターネットを一人で作り上げることはできません。人間は本来自分勝手で、協力をするのはしつけや教育があるからでしょうか。蟻を見ればわかるように、しつけや教育なくても協力する動物はいます。厳しい生存競争にさらされている動物がなぜ協力することがあるのでしょうか。また、人間は協力する性質を生まれ持っているのでしょうか。
この本は、こういった疑問が生物学でどう説明されているか知ることができる入門書です。生物における協力の実例から始まり、そういった行動が進化する理論的説明、協力しない個体に対する罰の役割と実例、人間の協力行動と非協力者を罰する傾向を調べた心理学的実験が紹介されています。