消費心理の参考図書・資料

   待田が担当する神戸松蔭女子学院大学の授業 「消費行動論」「消費社会の心理学」に関する参考図書・資料を紹介します。神戸松蔭の図書館所蔵資料を中心に紹介しています。         2019年9月
 


「デパートを発明した夫婦」鹿島茂 講談社現代新書 1991年

デパート(百貨店)は店舗数としては減りつつある。しかし、都心の大型店は依然都市の顔であり、消費社会のシンボルであり続けている。デパートという業態は19世紀パリのボン・マルシェというデパートによって確立された。著者は著名なフランス文学者だが、19世紀のフランスについて幅広い知識を持ち、多くの本を買いている。デパートが生まれた歴史的経緯や当時のパリの様子などを織り込みながら、ボン・マルシェの誕生と発展を活き活きと描写している。
著者の博識に支えられているが、専門的な本ではなく読み物として書かれているので、たいへん読みやすい。

 

「なぜ人はショッピングモールが大好きなのか」パコ・アンダーヒル 早川書房 2004年

"Call of The Mall"2004年の日本語訳。著者は小売業者のコンサルティング会社を経営しており、消費者の行動を徹底的に観察して売り場の問題点を見つけ出しアドバイスする専門家である。この本では、平均的なアメリカのショッピングモールに車で行き、入って歩き回りながら買いたい物を探していく様子をレポートする形で、消費者から見たショッピングモールの特徴と問題点を詳しく紹介している。さらに、モールにいる様々な人と会話する形で、売る側の考え方、買いものに来た人の考え方や行動を具体的にわかりやすく説明している。アメリカのモールの紹介だが、日本をはじめとする世界中のショッピングモールも比較のため紹介しているので、日本のモールの特徴も分かる。
小売業者へのアドバイスの本とするならもっと短くまとめられるだろうが、著者自身が自分は「小売の人類学者」と呼ばれていると述べているように、人間の行動や心理を知ることのできるフィールドレポートとして興味深い。

 

「ビジネスマンのための「行動観察」入門」 松波晴人 講談社現代新書 2011年

銭湯や書店の売り上げを伸ばす、オフィスの作業効率を上げる、営業の成績を上げる、といった課題に、行動観察という手法で取り組み成果を挙げた事例を紹介している。ビジネスマン向けの本ではあるが、心理学を学ぶ大学生が読んでもたいへん参考になる本である。著者は、観察した人間行動に対して社会心理学や認知心理学の知見からの説明も加えており、生活場面を例にして心理学理論を学ぶことができる。
心理学というと、人の行動を観察してなぜその行動したのか考えたり、その人の行動から性格を推測したするイメージがあるが、学問的研究においては行動観察という手法が使われることは少ない。これは、学問としての心理学は関連する要因のコントロールと定量化を重視するが、日常生活ないしそれに近い場面での行動観察では要因のコントロールが困難で多量のデータ収集と分析に大変な手間がかかるためである。学問的研究では質問紙調査(アンケート)を行うことが圧倒的に多い。
この本の著者は、ビジネス場面での行動観察は仮説生成の方法であるとして、膨大な時間をかけて客観的な実証性を追求するのではなく、より実用的な応用を行っている。かといって単なる現場経験主義ではない。著者は、学問的な訓練を受けており、客観的な視点や非観察者に対する観察者の影響も充分に考えている。すなわち、学問的な行動観察の長所と短所を充分に理解した上で、ビジネスに応用している。それが、この本にタイトルに、ビジネスマンのためのという言葉を付け行動観察を「 」付けにした意味だろう。
著者が本の中で、人間の行動の観察とその結果の応用について常に相手の立場になって考えるようにするべきだと述べているが、この本にもその態度が反映されており、ひとりよがりではなくたいへん読みやすく書かれている点もこの本の良い点である。

 

「依存症」 信田さよ子 文春新書 2000年

一般的には「・・・中毒」と呼ばれている依存症、なかでもアルコール依存を紹介した本。著者は治療の現場にいるので、具体例をもとにアルコール依存について理解していくことができる。アルコール依存だけでなく、依存症について知る入門書として適している。
 

「なぜ意志の力はあてにならないのか」 ダニエル・アクスト NTT出版 2011年

自己コントールに関して、学問的研究成果から芸能人の失敗談まで幅広く盛り込まれた読み物。原題 "We Have Met the Enemy: Self-Control in an Age of Excess" の副題「過剰な時代の自己コントロール」が内容をよく示している。「過剰な時代」とはアメリカに代表される現代の豊かな消費社会である。そのような時代であるからこそ、自己コントロールが必要であり、しかも多くの人にとって困難であり悩みの種である。それゆえ、主題の Enemy(敵) はセルフコントロールできない自分自身を指す。
著者は博識なエッセイストであり、欲求とその自己コントロールという問題を様々な例を引きながら平易に論じている。読み物として面白いと言えるが、話が広がりすぎて冗長とも言える。例えば、ギリシャ時代の哲学者たちが自己コントロールの問題をどう考えていたか一章を割いて紹介している。また、アメリカ人によってアメリカ人のために書かれているので、禁欲的な清教徒の精神が主流であった時代から自己コントロールの必要な社会へのアメリカの急激な変化の記述にかなりのページが割かれている。
自己コントロールの対処法についても、政府などの公共政策にまで言及しており、個人がどのように自己コントロールすべきか知りたいという人は、かなり分厚い本だけにそこまでたどり着くのがたいへんである。

 

「選択の科学」 シーナ・アイエンガー 文藝春秋 2010年

売る側にとっては消費者がどの商品を選ぶかどうかが大問題である。消費者が商品の性能を正確に判断して、同じ性能なら安い方を選ぶことが、経済学的には合理的な判断と言えるだろうが、必ずしも消費者はそのような選択をしていない。
商品の選択には必ずしも合理的とは思えない人間心理が関わっており、心理学的な立場で消費者行動が研究されるようになっている。そのような研究分野は行動経済学と呼ばれている。この本の著者は、行動経済学の入門書によく取り上げられる商品選択の有名な研究を行い、この本の第6講で詳しく紹介している。
ただしこの本は、商品の選択だけでなく「選択」という行為とそこから起きる問題を広く取り上げ論じた本である。選択できることの素晴らしさと、人間が(のみならず動物も)選択を強く欲しているという点から話をはじめるが、選択できることが絶対的な善ではなく、文化による捉え方の違いや、選択することの負担、命の選択のジレンマといった重い問題へと話を進める。扱っている問題は広く深いが、具体例を挙げてわかりやすく論じている。

 

「予想どおりに不合理」 ダン・アリエリー 早川書房 2008年(増補改訂版2010年)

商品選択などの購買行動、給与と仕事の選択、貯金や投資など私達の生活は経済活動から成り立っている。それらの経済活動において人間はしばしば理屈に合わない行動をする。経済活動において人がどういった行動をしがちなのか明らかにする学問が行動経済学である。経済学に心理学を取り入れた学問であり、私達にとって身近な問題を扱っているが、経済学の一部なのでかなり理屈っぽい面がある。しかしこの本では、実際にもありそうな買い物場面を設定した実験を紹介しながら分かりやすく学ぶことができる。たくさん出版されている行動経済学の本の中でも、最初に読む本としてお勧めできる。人間心理を知る本としてもおもしろい。
 

「感情と勘定の経済学」 友野典男 潮出版社 2016年

書名に「経済学」とあるが、扱う内容は、狭い意味での経済行動だけでなく、社会におけるモラルや協力行動に及んでいる。経済学の本というより、行動経済学者の視点から社会の諸問題について平易に論じた本。合理性に立脚して築かれた現代社会において、人間が合理的・理性的に行動できていない例を示すとともに、なぜ合理的に行動できないのかを心理学的に解説し、どうしたらよいのについても述べている。上で紹介した「予想どおりに不合理」に出てくるような人間の不合理性について、なぜそういった不合理な行動をしてしまうのかを知ることができる。
 

「行動経済学」 友野典男 光文社新書 2006年

上で紹介した「予想どおりに不合理」「感情と勘定の経済学」が読み物として書かれているのに対し、この本は入門書だがプロスペクト理論など行動経済学の理論についてきちんと説明している。行動経済学に関心を持ちきちんと勉強してみたいと思った人は、この本から学び始めるのがよい。
 

「価格の心理学」 リー・コールドウェル 日本実業出版社 2013年

架空の商品とその商品を売り出そうという人物を設定して、登場人物に考えさせる形で、商品の売り出し方を価格設定を中心に解説した本。行動経済学の知識が具体的にどのように生かされるか知ることができる。平易に書かれた本だが、上で紹介した「予想どおりに不合理」に続いて読めばさらに分かりやすい。。