「第23回 執筆者は語る」 (2023年6月1日~2023年8月31日)
本学専任の先生方より図書館へご寄贈いただきました図書を展示いたします。
(2022年度分)
「執筆者は語る」と題して、ご自分が執筆された図書を紹介してくださいました。
興味を持った本を読んで、先生に疑問点などを質問してはいかがでしょうか?
青谷 実知代 先生
地域創生と観光 / 陶山計介 [ほか] 編著
東京 : 千倉書房, 2022.12
コロナ下での地域創生と観光は、大きく変化しました。
2020年からのコロナ感染拡大の影響を受け、「第2期 まち・ひと・しごと創生総合戦略」は改訂され、地方創生の目指すべき将来性や今後5ヵ年の目標や施策の方向性などが策定されました。また、将来にわたって活力ある地域社会の実現と、東京圏への一極集中の是正を目指して新しい取り組みが導入されました。
このあたりで、地域創生と観光にとって注目すべき変化がありました。基本目標が見直され、「地方との繋がりを築く」という観点が追加されるとともに「関係人口」を地域の力にしていくことを目指すこととされました。
私たちは、2012年、J R西日本と鹿児島県主催の「鹿児島カレッジ」というプロジェクトをスタートさせ、現在も対象地域を変えながら今日まで続けています。当時の環境変化に適応しながら課題解決に新たな切り口を提示することで、地域創生と観光の双方に一種のイノベーションを起こした取り組みであり、地域創生と観光に必要なイノベーションを想像する上での示唆ともなっています!
この本では、地域創生におけるコミュニティの構築や、アートが拓く人と地域の可能性や、地域共生、地域創生におけるネットワークづくり、観光客の誘致などについて第1部では書かれています。
第2部は、関係性のつながり方や観光映像の話、着地型観光におけるチームづくり、組織との関わり方、また交流人口の増加など、観光力の課題について考察しています。
ぜひ、お読みいただき、これからの地域創生や観光についてお考えいただけたらと思います
坂本 真佐哉 先生
ナラティヴ・セラピーがもたらすものとその眼差し : ホワイト/エプストン・モデルの実践がわが国のセラピー文化に与える(た)もの / 坂本真佐哉編
(N:ナラティヴとケア ; 第14号)
三鷹 : 遠見書房, 2023.1
この雑誌は毎年1回発行されるもので、医療、福祉、心理学に留まらず幅広い分野におけるナラティヴ・アプローチの最先端について扱っています。毎回特集が組まれていますが、この回は私(坂本)が企画/編集を任せてもらうことになったので、私が関心を持つオセアニア(オーストラリアとニュージーランド)から世界に広がったナラティヴ・セラピーをテーマにしました。
ナラティヴ・セラピーは、心理的な問題や悩みを抱えた人々に対して、自らの人生を取り戻す支援を試みるものです。私たちは社会の常識や「あたりまえ」に合わせることができない時に悩みやつらさを抱えます。そこで、ナラティヴ・セラピーでは自らの望む人生と社会からの影響を分けていく手伝いを行います。もちろん、簡単なことではないのですが、それまでのものの見方とは異なる新たな視点やストーリーを手に入れることにつながります。この一冊はやや専門的ではありますが、とても意欲的な論考の詰まった一冊である上、表紙には私がニュージーランド在住のころに撮った写真が採用されたことから個人的には思い入れ深い一冊になりました。もちろん私の論文も収められています。ぜひ手に取ってみてください。
臨床心理学中事典 / 森岡正芳 [ほか] 編集委員
三鷹 : 遠見書房, 2022.12
事典や辞典、辞書などを選ぶのはとても難しいですよね。価格が高いこともさることながら、大きさや重量のこともあるので、使い道や置き場所についてあらかじめ考えておく必要があるでしょう。また、専門用語は常に更新され続けるので、出版年や改訂版の有無についてもチェックする必要があります。心理学全般に関しては、平凡社の「最新心理学事典」が有名ですね。私(坂本)も大学生の時にわからないことがあればまずはこれで調べていた記憶があります。しかし、如何せん高い(現在の価格では22000円)ので、私自身も学生時代は図書館や共同研究室(のようなところ)で借りて使用していました。
臨床心理学の分野では、培風館の「心理臨床大事典」には今もお世話になっています。改訂版が出ていますが2004年であり、約20年前になります。しかも、価格はやはり30000円を超える高額である上に重くて大きい。もう一つ、丸善出版から「心理臨床学事典」が2011年に出ています。比較的コンパクトで持ち運びはできそうですが、価格は16500円です。
このたび遠見書房から出版されたこの「臨床心理学中事典」はA5版なので比較的コンパクトです。しかも、購入者は遠見書房のウェブサイトより索引データと文献データをダウンロードできるということなので、時代に即していますね。しかも、6800円と他のものよりは手に入りやすいでしょう。一つ一つの解説は比較的詳細で、参考文献もつけられているので、さらなる学びにつながります。執筆者は249名で私もその一人に加えてもらい2つの項目を担当しました。ぜひ探してみてください。
作田 はるみ 先生
新たな社会創造に向かうソーシャルネットワークとしての世代間交流活動 / 草野篤子編著 ; 溝邊和成編著 ; 内田勇人編著 ; 村山陽編著 ; 作田はるみ編著 = Intergenerational Exchange Activities as a Social Network toward the Creation of a New Society
(世代間交流の理論と実践 ; 3)
大津 : 三学出版, 2022.11
ライフスタイルの変化、多様化により世代間での交流が失われつつあります。高齢者のみならず、障害者や子どもの孤立、地域の伝統が受け継がれにくくなっていることが危惧されています。これらは世界的な課題とされ、社会全体として多世代、異世代が交流できる仕掛けをつくることの意義は、「世代間交流学」という学問として確立されてきました。
本書は、「世代間交流の理論と実践」のシリーズ3として編集されました。シリーズ1(2015年)では、主に日本の実践を主軸に「世代間交流」が「場」、「対象」、「コンテンツ」を柱としてその在り方が示され、シリーズ2(2017年)では、国内外の研究者や実践者らの取組が、日本語と英語で紹介されました。本書シリーズ3では、国内から16編、諸外国から10編の先駆的な取組が紹介され、著名な先生方からのメッセージが英語と日本語で紹介されていています。本書では世代間交流の「場」として「子ども食堂」や「学童保育」、子どもや高齢者、障害者や地域住民までが集う「幼老統合施設」での実践をたどることができます。また日本の伝統文化である「囲碁」や「剣道」、お祝いで用いられる「水引き」、「食文化」等の「コンテンツ」を用いた世代間交流の在り方が、実践報告にとどまらずプログラムの評価や今後の展望と共に記されています。
多世代、多様な価値観をもつ人々とつながるための様々な仕掛けに触れてみてください。
橘 倫子 先生
姫路藩主酒井宗雅の茶と交遊 : 茶会記にみる茶道具 : 秋季特別展 / 茶道資料館編
京都 : 茶道資料館, 2012.9
『三冊名物記』 : 知られざる江戸の茶道具図鑑 / 茶道資料館編集
(茶道資料館開館40周年・今日庵文庫開館50周年記念特別展 = Chado research center 40th anniversary & Konnichian library 50th anniversary special commemorative exhibition / 茶道資料館編集 ; 2)
京都 : 茶道資料館, 2019.10
三冊名物記 : 今日庵文庫本 : 影印・翻刻 / 茶道資料館監修
京都 : 淡交社, 2019.10
3ステップで読める仮名のくずし字 / 淡交社編集局編
京都 : 淡交社, 2022.11
『姫路藩主酒井宗雅の茶と交遊』 と 『三冊名物記 知られざる江戸の茶道具図鑑』は、京都にある茶道資料館(美術館)の展覧会図録として刊行されたものです。展覧会で紹介した作品を写真入りで掲載しており、テーマ性も高いので、独立した書籍として楽しむことができます。
特に、江戸時代の大名茶人・酒井宗雅は姫路藩主でした。兵庫県下の歴史を知る上で、ぜひ名前を覚えてもらいたい人物の一人です。
また、『三冊名物記』 は、江戸時代の茶道具の名品を集めた茶道具図鑑です。当時の博物学的な視点を知ることができます。原本は茶道資料館併設の専門図書館「今日庵文庫」が所蔵しています。展覧会開催にあわせて、全文を翻刻し、『今日庵文庫本 三冊名物記 影印・翻刻』としても出版しました。
『3ステップで読める仮名のくずし字』 は、月刊誌に連載した内容を基に、江戸時代のくずし字を学ぶ初心者向けにまとめ直した教本です。
大学で学芸員養成課程の授業を担当していますが、展覧会開催にあわせて展覧会図録を刊行したり、研究内容をわかりやすく一般の人に紹介したりするのも、学芸員としての私の仕事です。これらの書籍を通して学芸員の仕事を知ってもらえるとうれしいです。
田附 敏尚 先生
全国調査による感動詞の方言学 / 小林隆編 ; 小林隆 [ほか執筆]
東京 : ひつじ書房, 2022.11
皆さんは怒ったときに相手に対して何と言いますか? 「アホ!」「バカ!」など、いろいろあると思いますが―もちろんそんな汚い言葉は使わないという人も多いでしょうけど―、このようなアホやバカなどの罵倒語に地域差があることは、あの『探偵! ナイトスクープ』が解き明かしています(これは学術的にも貴重な調査・研究でした。気になる人は松本修著『全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路』(太田出版, 1993年)をお読みください)。
『全国調査による~』の中で、私はそれだけではなく、その罵倒語を含む言い回し自体に地域差があることを発見しました。例えば『3年B組金八先生』の坂本金八の有名なセリフに「このバカチンが!」というのがありますが、「バカチン」だけでなく「この~が!」という怒ったときの言い回し自体が九州に多いことがわかったのです(演ずる武田鉄矢氏は福岡県出身)。
本書には私の論文以外にも、満腹時に用いられる感動詞や、咳・くしゃみ、訪問時の挨拶、神輿を担ぐ際の掛け声、子どもをほめる言い方、からかいの方策、幼児語……等々、これまで明らかにされてこなかった地域差がいろいろと示されています。分布を示した地図も多数掲載されていますので、その地図を眺めるだけでも面白いはずです。ぜひ手にとって見てみてください。
山内 啓子 先生
英語音声学・音韻論 : 理論と実践 / 長瀬慶來教授古希記念出版刊行委員会編
大阪 : 大阪教育図書, 2022.3
この本は研究書ではありますが、英語学や英語音声学を学ぶ学生、また英語教師を目指す学生たちのためのテキストになるようにと意図して編まれたものです。本書全体の特徴は広範囲な領域を扱っていること、つまり音声・音韻、発声のメカニズムや音声を物理的に捉えようとする音響音声学、音韻の変遷の歴史、さらには音声教育についてまでを網羅していることです。この中で私は第IV部「音声学・音韻論と外国語教育」の初等英語教育と音声教育について担当、執筆しています。
本学の学生たちを指導していると、小学校から英語に親しんできているが音声的な認識や訓練が不十分な学生と、滑らかにフレーズを発音できる学生が混在します。本人の個性や特性もさることながら、どのような音声教育を受けてきたのだろう、と思いを馳せることもあります。発音はムリ!と投げ出す前に、英語音声学の要を理解して少しでも英語の音声発生が向上するように、また教師になる際の指導に繋げてほしい、との思いも込めて執筆しました。興味の向くところ、どこからでも開いてみてほしいと思います。
山本 竜也 先生
臨床心理学中事典 / 森岡正芳 [ほか] 編集委員
三鷹 : 遠見書房, 2022.12
本事典は、臨床 心理学中事典という名の通り、1項目あたり600字~1200字で記載されています。一般的な事典では項目の定義が書かれているため、それよりも内容的に充実しながらも、項目ごとに検索しやすいという特徴を持っています。監修、編集委員の先生方は、臨床心理学の分野で中心的な役割を担われています。
私が担当した項目は「トークンエコノミー」、「エクスポージャー療法」、「認知再構成法」の3つです。これらは私の専門である認知行動療法の用語になります。これだけ見ると非常に専門的な内容で敬遠されるかもしれませんが、「甘え」、「怒り」、「意識」、「アイデンティティ」などみなさんのなじみのある用語も多く掲載されています。
このような項目ごとに掲載されている事典の特徴は短時間で様々な用語に触れられることです。ウィンドウショッピングをするときの気持ちで、パラパラとめくってみてください。思わぬ出会いがあるかもしれません。
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