神戸松蔭女子学院大学図書館 今月の展示

「第19回 執筆者は語る」  (2019年6月6日~2019年6月30日)

 本学専任の先生方より図書館へご寄贈いただきました図書を展示いたします。 (2018年度分)
 「執筆者は語る」と題して、ご自分が執筆された図書を紹介してくださいました。
 興味を持った本を読んで、先生に疑問点などを質問してはいかがでしょうか?
 なお、展示している本は展示終了後に貸出できます。




楠木 新 先生

定年準備 : 人生後半戦の助走と実践 / 楠木新著 (中公新書 ; 2486)  

東京 : 中央公論新社 , 2018.5

 この『定年準備』(中公新書)は、前年に出版した『定年後』(中公新書)が多くの人に手に取ってもらったことから、その続編として執筆したものである。
 会社員のシニア向けライフプラン研修では、お金・健康・趣味などが重要と説かれる。しかしそれだけでは物足りない人が少なくない。「人生100年時代」と言われるように、長い定年後を充実させるには、自分なりのやりたいことを見極めて社会的なつながりを確保することが必要になってくる。人は一人では生きていけないからだ。
 本書も『定年後』と同じく、シニア社員や定年退職者への数多くの取材を重ねるなかで新たに見聞したことや多彩な具体ケースを紹介している。その取材を通じて感じているのは、定年後を充実して過ごすポイントは、本人の「主体性」と「行動力」であり、それを身に着けるためには、定年退職してからではなくて、会社に在職中から助走を始めておくことである。その事前準備に役立つための具体的な実例や個人的体験を多く盛り込んだ。またこれらの具体ケースを行動面から整理して、巻末に「定年準備のための行動六か条」としてまとめている。




黒木 邦彦 先生

バリエーションの中の日本語史 / 岡崎友子 [ほか] 編

東京 : くろしお出版 , 2018.4

 日本語の静態化形式は基本、連用動詞に存在動詞が続く補助動詞構文か、同構文に由来し、動詞語幹から動詞語幹を派生させる動詞接尾辞かであり、どのような日本語変種にも必ず1つは存在する。
 こうした静態化形式を複数有する変種も少なくない。とりわけ、鹿児島県中西部の旧市来町ないし旧串木野市(現在のいちき串木野市域)で生まれ育った老年層の母方言(以下、「市串方言」)は、同形式を5つも揃えている点で、異彩を放っている。
 鹿児島方言の静態化形式の研究は少なからず存在する。しかし、いずれも体系的研究ではなく、特定形式に関する存在の指摘や特徴の記述に留まる。そこで、本稿では、市串方言の静態化を体系的に示すため、いつつの静態化形式に備わる次の特徴を解明した。
a. (i) {-wor-} を、或いは、複合・抱合不完成相において {-O} ‘NL’ を取る動詞語幹の末尾連声は共時的、(ii){-cjor-} ないし {-cjar-} を取る動詞語幹のそれは化石的。【音韻的特徴】
b. {-wor-}、{-cjor-}、{-cjar-} は動詞接尾辞一般とは異なり、音韻的語を成しうる。【音韻的特徴】
c. 複合・抱合不完成相は、複合語を含む音韻的語一般に同じく、その声調を第l構成要素に依拠する。市串方言では単純語と複合語とが音韻的に区別できないため、複合不完成相の構造は {VSTM-kata(=(z)jar-)} であり、不完成相の標識は、動詞語幹から名詞語幹を派生させる接尾辞 {-kata} とも見倣しうる。【音韻的特徴】
d. いつつの静態化形式は互いに共起することもあり、必ずしも排他的ではない。【形態統語的特徴】
e. 抱合不完成相を構成する名詞語幹はどのようなものでも良く、有生性、敬意、数、連体修飾要素の統語範疇には制限されない。【形態統語的特徴】
f. いつつの静態化形式は[表7]に挙げた意味的用法を持つ。【意味的特徴】

鹿児島県甑島方言からみる文法の諸相 / 窪薗晴夫, 木部暢子, 高木千恵編
東京 : くろしお出版 , 2019.2

 本稿では、上一動詞と一部の二段動詞とが九州方言 (本稿に言う「方言」は基本的に現代方言) において (部分的に) ラ行五段動詞に転じたこと (以下「九州ラ行五段化」) を、比較方言学的観点から語幹の変化として捉えた。その目的は、<i> 活用の変遷に関して、新規性と妥当性とに富む説を唱えると共に、<ii>古代日本語動詞に広く見られる語幹交替の存在を知らしめることに有った。
 九州ラ行五段化とは、i ~ ir交替を起こす上一段動詞語幹が、九州方言におけるC語幹とe’ 語幹との二極化の中で、C語幹の一種たる後天的r語幹に推移したことを指す。この後天的r語幹には、i ~ u交替を起こす上二段動詞語幹の一部や、音韻的安定性に欠ける1音節の下二段動詞語幹も合流しており、非交替型子音語幹とe ~ u交替型母音語幹とによる語幹型二極化を際立たせている。
 この見方に拠れば、形態変化に乏しい上一段動詞がそれに富む五段動詞に推移するという解釈の奇妙さは解消される。本稿の主張は更に、「少数派を多数派に合流させるための」、或いは、「韻律的な不安定性の解消をモチーフとした」変化とする先達の説とも矛盾しない。
 第4節では、古代日本語動詞を資料として、一・二段動詞などに見られる語幹交替を明らかにした。第5節では、上甑島里方言を資料として、動詞に関する文法記述に表層形と基底形との区別が欠かせないことを確認した。第6節では、筆者の調査結果に基づいて、九州西部方言における動詞語幹交替を示した。第7節では、言語地理学的・歴史言語学的観点に拠る推定を交えつつ、九州ラ行五段化の変遷を考察した。


江 弘毅 先生

K氏の大阪弁ブンガク論 / 江弘毅著  

東京 : ミシマ社 , 2018.7

 ここ10年ぐらいの文学作品のトレンドとして、大阪(関西)弁を使う作家が注目を集めている。町田康さん、西加奈子さん、津村記久子さん、黒川博行さん…、又吉直樹さんもそうだ。
 待てよ、昔からあるやないか。織田作之助や谷崎潤一郎、山崎豊子も司馬遼太郎も、バリバリ大阪弁を使ってるやないか、というところから、まずは新旧作家の小説の中の大阪弁の使いっぷりを味わうことにした。
 明治以来、「標準語/共通語」として制度化され「国語」として教育されてきたことばと、大阪~関西でわたしたちが日常のコミュニケーションで使っていることばは、時には不協和音をかもす。そんななか「どうしても大阪弁でないと表現することが出来ないこと」に作家たちは手足をばたつかせる。
 その大阪弁にはそもそも「良い言葉」「正しい言葉」というものはない。代わりに前景化するのは「エッジのたった言葉」である。つまり、大阪~関西においての、「ある地域や社会集団にふさわしい言葉使い」(エクリチュール)というものが、「それぞれ違う」からこそ「おもろい」ということになる。
 上方漫才「ボケ」「ツッコミ」は、そのほんの一部分であり、わたしがその都度「たまらんなあ」とうなったり、「しびれたり」「あきれたり」する、かれらの文学作品は、はるかにそれらをしのぐ。
「そこらへんをわからんとなあ」という説明はともかく、まあ、この本で登場する作家たちの大阪弁小説、ぜひ読んでいただきたいです、必ずおもろいから。

田附 敏尚 先生

感性の方言学 / 小林隆編  

東京 : ひつじ書房 , 2018.5
 本書は、オノマトペ・感動詞といった感性に関わる言葉をテーマとした論文集です。編者である小林隆氏は、近年この領域に関する本をいくつか著しています。中でも澤村美幸氏との共著『ものの言い方西東』(岩波新書)は一般向けで読みやすく面白いので、お薦めです。
 日本語の研究において、感動詞の研究はそれほど盛んに行われているわけではありません。まだまだわからないことだらけです。たとえば共通語でも、「てへ」を辞書で引くと「照れたり困惑したりしたときなどに発する語。」(『精選版 日本国語大辞典』)という記述にあたりますが、そのような状況であれば誰でも発せられるわけではありません。サザエさんは使えても、波平さんは言いそうにありませんし、同じ“照れる”でも、自分のうっかりミスで照れる場合は使えそうですが、他人のイチャイチャぶりを傍から見てこっちが照れる場合は言わないような気がします。辞書の記述からでは、このようなことはわかりません。
 共通語ですら研究の進展はこの程度なのですから、方言の感動詞についてはほとんど進んでいないと言ってよいでしょう。そのような中で、私は本書において、青森県五所川原市方言(いわゆる津軽弁)の「アッツァ」という感動詞の意味や用法を記述しました。共通語に訳すと、「あら」「まあ」のような語に似ていますが、「あら、いらっしゃい。」「まあ、おいしい!」が言えるのに対し、「アッツァ、いらっしゃい。」「アッツァ、おいしい!」はかなり不自然なので、同じとは言えません。では、どのような意味・用法を持つ語なのか。それは実際に本書を読んでみてほしいと思います。
 本書は、オノマトペと感動詞をテーマに据えて、これらをさまざまな研究者がさまざまな角度から論じています。まずは本を手に取り目次を見て、興味を持てそうなタイトルがあったらその一章だけでも読んでみてください。

中林 浩 先生

すまい・まちづくりの明日を拓く : 京都の実践 / 新建築家技術者集団・京都支部編 (新建叢書 ; 2)  

東京 : 天地人企画 , 2018.9

 新建築家技術者集団という全国組織の京都支部で出版しました。1980年代からの京都でのまちづくりや建築デザインの多様な活動を紹介しています。第Ⅰ部では「京都計画88」「送り火アセスメント」などのまちづくり運動をふり返っています。第Ⅱ部では、京町家をささえる伝統工法の話やコーポラティブハウスの実践例を語っています。第Ⅲ部では、保育園や高齢者施設や高齢者の居場所づくりについて書いています。
 わたしが書いた部分は、2007年の京都の新景観政策についてです。2004年の景観法制定を機に2007年新景観政策と呼ばれる大きな転換をすることになったのです。都心居住地の高さ規制が15mなりました。高層マンションをめぐる反対運動が各地で起こるなか、町内ほどの範囲で住民が自主的にまちづくり憲章・まちづくり宣言を作る例が増えてきました。2004年の景観法の制定を受けて、京都市が全面的に景観行政を見直す動きのなかで起こりました。連戦連敗に見えたまちづくりの住民運動が大勝利をもたらしたといっていいでしょう。
 そのほかに二つのコラムを書きました。ひとつは「京都水族館の愚」。オリックス不動産が京都市の財産である公園の中に水族館を開きました。しかも内陸の京都に人工海水を使った水族館です。学術的な解説なども少なく、全体に研究的な雰囲気はありません。1994年に、平安京1200年を記念してできたのが梅小路公園で、緑地の少ない地区にとっては待望の緑地でしたが、損なわれてしまいました。
 もうひとつは「ポンデザール問題」。1997年は「京都・パリ友情盟約締結四十周年」にあたっていました。時の桝本京都市長は鴨川の三条大橋と四条大橋の間に1999年完成予定の鴨川歩道橋架橋計画を発表しました。が、反対運動が盛りあがり中止せざるを得なくなりました。まちづくり運動が市の計画をストップする事例として貴重なものとなりました。

中村 惠信 先生

日本図書館学の奔流 : 岩猿敏生著作集 / 志保田務, 大城善盛, 河井弘志, 中村恵信編 

大阪 : 日本図書館研究会 , 2018.3

 本書は、1956年(昭和31年)から1975年(昭和50年)の19年間、京都大学附属図書館の事務長・事務部長を歴任され、関西大学教授として日本図書館史を通じて日本の図書館学を確立し、2016年(平成28年)4月に亡くなられた岩猿敏生先生の業績を日本の図書館界に刻みたくて、顕彰事業を企画し、発行した。
 本書に収録された18論文の著作年代は1955年(昭和30年)から1998年(平成10年)までである。本書の構成は 1.図書館学・図書館情報学、 2.図書館学教育、図書館情報学教育、 3.大学図書館、 4.大学図書館職員の4部となっている。この論文を通じて、戦後日本の図書館学論の歩みとライブラリアンシップ(図書館司書職)、大学図書館経営、図書館史研究が述べられている。特に大学図書館の事務部長としての大学図書館経営論の論述は大学図書館を目指す人には必読である。
 本書の本体は、岩猿先生が多くの学協会の機関誌に掲載された論文で構成されている。編集作業はこれらの論文のコピーを収集し、スキャナーで読み取り作業を行った。古い文献、もあり、印刷状況および製本状況がよくなくて、のどの部分の読み取り作業に困難した。少しでも正確な文章にするための校正作業は、大変であった。この著作が後世の図書館学者に示唆する部分が多いので、我々編集者は頑張った。論文を読みやすくするために、できる範囲で当用漢字字体表(文化庁1949年)に従って現代漢字に変換した。本書の装丁は岩猿先生のお孫さんに依頼した。本書のカバーや表紙に光る、「小さいお芋」は岩猿先生の大好物であり、シンプルで味わい深い先生の研究姿勢を想像される。それと、このカバーの特徴は寸足らずだと思わせていろいろと考えさせられるが、これはお孫さんの発想で、表紙の色をカバーで隠さないという斬新な今までにない装丁である。司書養成課程で司書を目指す学生には必読書である、是非、皆さんに読んでほしい。この場を借りて、論文の文献複写の取り寄せにご協力をいただいた神戸松蔭女子学院大学図書館のスタッフの皆様にお礼申し上げます。