本学図書館蔵『伊勢物語奈良絵本』『伊勢物語かるた』
(2018年7月22日)
『伊勢物語』
平安時代に書かれた「歌物語」。作者未詳。
在原業平(八二五〜八八〇年)と思われる「男」を主人公とした物語で、その男の、様々な女性との恋のやり取りや、惟喬親王や友人との親愛の情が百二十五章段に描かれている。
平安時代の物語は絵を伴って読まれていたようで、『伊勢物語』も古くから絵巻や絵本が作られていたが、残念ながら、平安時代の『伊勢物語』の絵は残っておらず、現存するのは鎌倉時代以降のものである。
本学図書館では、江戸時代のものだが、彩色された『伊勢物語』の絵本とかるたを所蔵している。それらの絵を見ると、『伊勢物語』の場面がどのように理解され、読まれて来たかを伺うことができる。
◇伊勢物語奈良絵本
『伊勢物語』は平安時代以来、絵巻・絵本が多数制作されてきたが、室町時代末期から江戸時代前期にかけて、いわゆる奈良絵本が多数制作された。奈良絵本は明るい彩色の素朴な画風を特色とする彩色絵入り本。
奈良絵本という呼称は、奈良興福寺などの絵仏師の作だからとする説があるが、これは明治以降に生まれた呼称で、奈良との関係は不明。
本学所蔵本は、詞(本文)の部分にも金泥の下絵が入った料紙が使われ、絵のすやり霞には金砂子が蒔かれた豪華な絵入り本である。
絵は、江戸時代初頭に刊行された『嵯峨本伊勢物語』にある四十九図と同じ場面が絵画化されており、その図様も『嵯峨本』の影響を受けているものが多い。
◎伊勢物語奈良絵本 913.32/93
制作者不明。江戸時代前期(寛文・延宝年間頃)制作か。
三冊。上が三十四丁、中が四十五丁、下が三十七丁。
綴葉装(何枚かの紙を重ねて二つ折りにし、これを二折り以上、糸で綴じた冊子本の装丁。列帖装ともいう)。
縦二三.四p×横一七p。
紙本著色墨書、金泥下絵入り料紙。一丁に十行書き。
絵は、上に十九図、中に十七図、下に十三図の全四十九図。
表紙は龍と牡丹唐草文様を配した金襴緞子。左肩に金箔散金霞引の題箋を貼り、各冊「伊勢物語 上(中・下)とする。見返しは布目押しの金箔貼り。
画面上下に描かれたすやり霞には金砂子が蒔かれ華やかな装飾画面としている。
黒漆箱入り。箱の表中央に「伊勢物語」の金蒔絵。
◇伊勢物語かるた
「かるた」の、淵源は平安時代末期の「貝覆い」(対になる、蛤の
貝殻を合わせる遊び)で、室町時代には貝殻の内側に絵が描かれたり、和歌や漢詩が書かれたりするようになった。貝から紙の札に変わったのは、
桃山時代にポルトガル(南蛮)からもたらされたカルタ(CARTA)の影響である。この南蛮のカルタは天正かるたや花札
を生み、これらは賭け事に使われて、江戸時代、しばしば禁制となったが、一方、『伊勢物語』、『源氏物語』、『小倉百人一首』などの「歌かるた」は、和歌を学ぶための遊び道具として流行した。
「伊勢物語かるた」は『伊勢物語』全二百九首の和歌の上の句下の句を、絵札と字札にした四百十八枚のかるたである。ただし、本学図書館所蔵の一種類(913.32/72)は、『小倉百人一首』にならって、『伊勢物語』から百首を抜き出し、二百枚セットのかるたとしている。
三種ともに、手書きのかるたで、絵は先行する『伊勢物語』の絵巻・絵本の図様の一部を切り取ったものや、その章段に登場する風景や、歌を象徴する景物だけが描かれているものも多い。また、絵札・字札ともに、金銀箔や銀箔が散らされている。
◎伊勢物語かるた 913.32/72
制作者不明。江戸初期か。
字札百枚・絵札各百枚、二百枚揃い。
縦七.八p×横五.五p
外木箱入り(十四p×九.三p×十三.一p)
紙本着彩、金銀箔散らし、裏は金箔押し。
各絵札の右下隅に、所蔵者印と思われる「藤」の朱印がある。
◎伊勢物語かるた 913.32/83
制作者不明。江戸中期か。
字札・絵札各二百九枚、全四百十八枚揃い。
縦八.二p×横五.四p
外木箱入り(十四.七p×二十一.一p×十三.七p)
紙本着彩、銀箔散らし(絵札は概して上部三分の一に散らす)、裏は銀箔押し。
各絵札の裏面に、旧蔵者による下の句の書き付けがある。
◎伊勢物語かるた 913.32/103
制作者不明。江戸中期か。
字札・絵札各二百九枚、全四百十八枚揃い。
縦七.八p×横五.四p
塗箱入り(十五.三p×二十一.二p×十二.八p)
紙本着彩、銀箔散らし(絵札は上部およそ三分の一に銀箔を散らす。字札は全面に銀箔を散らす。)、裏は銀箔押し。
各絵札の裏面に、旧蔵者による下の句の書き付けがある。
(本学教員)
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