神戸松蔭女子学院大学図書館 今月の展示

「第18回 執筆者は語る」  (2018年6月7日~2018年7月14日)




大下 卓司 先生

特別活動と生活指導 / 西岡加名恵編著 (教職教養講座 ; 第7巻)  

東京 : 協同出版,2017.3

 本書は、京都大学教育学研究科に関わりのある教員を中心として、教職教養に関わる最新の動向を、教育思想から、教育課程、教育方法、教育心理学と様々な角度からまとめたシリーズの一部です。本書は特別活動と生活指導に焦点を合わせ、集団作り、キャリア教育、生活指導など、教科指導とは異なった教師の仕事をまとめました。                        
 この中で、筆者は、不登校問題を担当しました。「不登校」問題について、「不登校」という用語の成立から、不登校研究の流れ、現在の取り組みを整理しました。
 不登校問題は、教育行政、学校や教師、保護者、スクールカウンセラー、教育社   会学者、フリースクールといった様々な立場の人間が、その解決やとらえ方の転換に向けて研究・実践に取り組む複合的なフィールドです。この不登校問題の最新の動向について、学校の教師を志す学生の皆さんが参照できるようにまとめました。

20世紀初頭のイギリスにおける数学教育改造運動 / 大下卓司著  

東京 : 東洋館出版社, 2018.3

 この研究は、中等学校でなぜ数学を学ぶのか、という問いを検討したものです。そのために、数学教育の歴史の中で、初めて国際的な数学教育改革が行われた、数学教育改造運動に着目しました。
 この運動は、イギリスの工学者ペリー(Perry, J.)によって行われた1901年の講演「数学の教育」をきっかけに、20世紀初頭のイギリスで勃発しました。ペリーは、中等学校で数学は教養を身に付けるためだけではなく、科学の基礎として役に立てるために学ばれるべきであると主張しました。また、そのためにカリキュラムや教育方法の転換が必要であると考え、その転換をシラバスとして示しました。
 この議論は、イギリスのみならず、同様に数学教育改革の機運が高まっていた欧米諸国、そして日本を巻き込んで国際的な教育改革運動へと発展しました。数学教育のあり方そのものが問われた当時の論争が、なぜ数学を学ぶのかという問いに対する一つの回答になる事を願っています。





奥 美佐子 先生

3・4・5歳児の造形あそび / 奥美佐子著

大阪 : ひかりのくに, 2017.8

 本書は2016年3月に発行された『0,1,2歳児の造形あそび』の続編になります。3,4,5歳児期には、0,1,2歳児時期の造形活動を通して培われた表現の土台から、新たな造形活動が生まれ展開していきます。「造形」には表現領域だけではない人間形成にとって重要な学びの世界があるのです。子どもが自分の思いやイメージを可視化するプロセスには、子ども自身が立案したプランの実行や子どもが目指した目標の実現が重なります。
 『3,4,5歳児の造形あそび』は、3歳児~5歳児の発達の見通し、各年齢の造形活動の年間計画、年齢別クラス及び異年齢クラスにおける活動の実際、2歳児から3歳児への移行段階における造形保育のポイントなどを掲載しており、造形活動の年間計画の構想の参考になります。また、美術教育のエッセンシャルな部分を生かしつつ、保育を総合的にとらえて日常の経験や発見を造形活動につなぐために、造形保育のマネージメントを理解して実践することができる構成になっています。
 日常的に実践された43事例をもとに、幼児の造形表現が生まれる道筋を実践から辿り、幼児の造形教育とは何かを考え、新たな造形保育を創造するための書として、学生の保育研究や幼児教育現場の保育者の保育に役立つことを願っています。


奥井 一幾 先生

楽しもう家政学 : あなたの生活に寄り添う身近な学問 / 『家政学のじかん』編集委員会編著  

東京 : 開隆堂出版. - 東京 : 開隆堂出版販売 (発売), 2017.4

本書は、都市生活学科における学びの土台となっている「家政学」という学問の楽しさを、幅広い方々に知ってもらうために編集されました。関西で活躍するデザイナーのZAnPon(ザンポン)さん、ヨシ中谷さんとのコラボにより、様々な仕掛けが隠れる1冊に仕上がりました。ここではその一部を紹介しますので、実際に本を手にとって確かめてみてください。

仕掛け①
各章には、章の内容をあらわす漢字1文字が割り振られております。(日本語ってすばらしい)
仕掛け②
p.3にある大きなハートをよく見てください。窓のようなものが付いております。p.134-135の筆者一覧には、それらの窓から各筆者が顔を出している様子が描かれています。
仕掛け③
p.132-133では、それぞれ異なる形を持った人間+カマキリが描かれています。
それを組み合わせると… なんとp.3の巨大なハートになります。
仕掛け④
p.133のカマキリは、私(奥井)です。執筆当時、神戸松蔭の11号館前で私に飛び移ってきたカマキリを4ヶ月程飼っておりまして、その話をデザイナーさんがおもしろがって私をカマキリにしてくれました。
仕掛け⑤
家政学のロゴ(家+ハート)がいたるところに隠れています。探してみてください。
仕掛け⑥
実は、本書のベースになった1冊が、2012年に『今こそ家政学』として出版されています。
(本学図書館にあります)劇的ビフォーアフターを遂げておりますので、その変化もお楽しみいただけます。
他にもまだ仕掛けがありますよ!内容はもちろんですが、デザイン面からも楽しんでいただければ嬉しいです!

江 弘毅 先生

『街場の大阪論 : Osaka / 江弘毅著』  

東京 : バジリコ, 2009.3

「うまいもん屋」からの大阪論 / 江弘毅著 (NHK出版新書 ; 357)  
東京 : NHK出版 , 2011.8

有次と庖丁 / 江弘毅著  
東京 : 新潮社 , 2014.3

濃い味、うす味、街のあじ。 / 江弘毅著 ; 奈路道程画  
大阪 : 140B , 2016.7

いっとかなあかん店大阪 / 江弘毅著 』  
大阪 : 140B , 2017.3

いっとかなあかん神戸 / 江弘毅著 』  
大阪 : 140B , 2017.8

大阪的 / 江弘毅, 津村記久子著 (コーヒーと一冊 ; 11)  
京都 : ミシマ社京都オフィス , 2017.3

 松蔭のみなさん、こんにちは。都市生活学科の 江 弘毅 です。
 だいたい、大阪?関西の街やコミュニケーションについての書籍を、だいたい年に2?3冊上梓しています。新聞連載やいろいろな雑誌やウェブサイトでも書いていて、それをまとめた本が多いです。
 さてダイジェストいたしましょう。
『街場の大阪論』は「ミーツ」誌の連載コラムを元にした単行本。大阪論ですが「大笑いするけど、ちょっと哀しく、あとで考えさせられる、ウルトララテン系エッセイ」と評されました。これは1年半後に新潮文庫に収録されました。巻末解説は内田樹さんです。
 NHK出版新書の『「うまいもん屋」からの大阪論』は、大阪人の飲食店での「ふるまい」からの大阪論です。余談ですがこの本の「はじめに」が、武庫川女子大附属高校の長文の入試問題になりました。
 『有次と庖丁』は、1560年創業の京都の老舗「有次」の庖丁を通した、日本の食文化とものづくり精神の考察です。これはいわゆる取材もので、新潮社の『波』に1年連載したものです。
 『濃い味、うす味、街のあじ。』は毎日新聞の連載の単行本化。タイトルままの「街と味の紀行エッセイ」で、いまも連載中。
 『いっとかなあかん店 大阪』は、店と食からのコラム・ガイドで写真入り。デザインは長年日本のグラフィック・デザインを牽引されてこられた大阪出身の巨匠・長友啓典さんで、これが最後のお仕事になりました。『いっとかなあかん神戸』はその神戸編。タイトルから「店」を取ってしまったその訳=神戸らしさにあふれる本です。 『大阪的』は芥川賞作家・津村記久子さんとの対談とコラム。大阪語(弁)のコミュニケーション技法や言語運用にスポットをあてた対談は、終始「ノリノリ」でおこなわれたのがわかります。

坂本 真佐哉 先生

逆転の家族面接 / 坂本真佐哉編 ; 喜多徹人[ほか著]  

東京 : 日本評論社 , 2017.6

 変なタイトルだなあ、と思われる方が多いと思いますが、これは心理療法の一分野である。家族療法の本です。とは言っても、もともとは「こころの科学」という一般向けの雑誌に2年かけて連載したものを編集して書籍にしたものですから、ちっとも肩肘張らずに読むことができます。
 家族療法というのは、家族のチカラを借りてこころの問題を解決する専門分野です。人は一人で生きているわけではなく、様々な人間関係の中で生きています。悩みや問題を抱えると、そのことが周囲の人に影響を与えるかもしれませんし、また、周囲の人からの影響で悩みが大きくなったり、小さくなったりすることも、場合によって解決しちゃうこともあるわけです。家族療法は、そのような人と人の関係による作用を考慮しながら、悩みや問題が解決できるように援助する方法です。
 執筆者は、なんと12名です。教育や医療、福祉など、様々な分野の専門家が、家族療法のことを一般の人にも伝わるように具体例を挙げながら、解説してくれています。
 関係する授業は、心理学科で坂本が担当している「心理療法Ⅲ」や大学院の「家族療法・ブリーフセラピー特論」ですが、先にも述べたように一般向けですので、心理学科以外の人でも十分に理解できると思います。ぜひ、読んでみてください。そして、坂本まで感想を伝えに来てください。

寺見 陽子 先生

子どもの未来を育む保育・教育の実践知 : 保育者・教師を目指すあなたに / 神戸松蔭女子学院大学子ども発達学科著 ; 寺見陽子編集 

京都 : 北大路書房, 2018.3

 このたび、子ども発達学科は10周年を迎えました。それを記念して、本学科では大学からの出版助成を受けて「子どもの未来を育む保育・教育の実践知-保育者・教師を目指すあなたにー」を北大路書房(2018年3月)より刊行しました。本書は、これから保育者や教師を目指す本学学生はもちろん、これから進路を決める高校生の皆さんの意識を啓発し、これからの保育者・教師の育成を目的としています。
 平成30年、保育現場では保育所保育指針や幼保連携型認定こども園保育・教育要領、幼稚園教育要領が改訂されました。31年度には、小学校の学習指導要領も改訂されます。その背景には、インタ-ネット時代を生きる、これからの子どもたちの教育の在り方やその基本方針の見直しが行われたことがあります。
 そこで、本書では、こうした保育・教育の動向を踏まえ、保育・教育の基本とともに、これからの保育・教育の在り方を、本学科全員の先生方に、それぞれのご専門の立場から執筆していただきました。当初はオムニバス形成で編集していましたが、全体として伝えたいことを明確にしたいと考え、全体構成を3部構成にして、主役を「子ども」におき、「第一部「遊んで育つ子どもたち―乳幼児期の子どもの理解と援助」、第二部「表現する子どもたち―豊かな表現力を育てる教育―」、第三部「学んで育つ子どもたち」の3部編成にしました。乳幼児期の養育・保育・教育、学童期の生活・学び・教育について、具体的な内容からその視点が明らかになる等に編集しました。それぞれの先生の貴重な原稿の真意が失わないように編成するのは、私自身の専門外の領域もあってちょっと苦労しましたが、楽しくもありました。原稿を読みながら、編集している私自身が学ばせていただいたことがたくさんありました。   
 この本書は、すでに、本年度入学した学生さんたちの初期教育のテキストとして、読まれています。一人でも多く方々に興味関心を持ってもらえればと願っています。

土肥 伊都子 先生

学びを人生へつなげる家族心理学 / 土肥伊都子編著 

大阪 : 保育出版社 , 2017.4

 本書は、主に家族心理学を学ぶ大学生に向けたテキストです。本学の心理学科の3年次生、4年次生は、選択科目の一つとして、授業で教科書として使用しています。
 家族は身近なものでありすぎるため、たいていの人たちは、あらたまって家族の「常識」を振り返ることなど、あまりないでしょう。ましてや、家族を学問として学ぶことを思いつく人も少ないと思います。
 そこで本書は、読者に家族の問題に気づかせて、本を読んで学んだことを自らの人生へと直接つなげるものにしたつもりです。具体的には、家族に関する「自明の理」を、「問題」として認識できるように、読者に疑問を投げかける形の項目タイトルをつけました。また、家族心理学は、心理学だけでなく、家族を扱うさまざまな学問領域も学ぶことで理解が深まります。そこで、医師や建築士、社会保険労務士などの専門家にも執筆に加わって頂きました。また、心理学の中でも、臨床、発達、社会、ジェンダーなど、さまざまなアプローチを織り込みました。
 心理学科の学生以外のみなさんにも、ぜひ読んで頂ければと期待しています。

中林 浩 先生

超絶記録!西山夘三のすまい採集帖(Lixil booklet)  

東京 : LIXIL出版 , 2017.6 .月


 LIXILギャラリーというところで「超絶記録!西山夘三のすまい採集帖」という展覧会が開催されました。大阪展2017年6月~8月、東京展9月~11月、合計約1万人の入場者がありました。本書はその図録で、市販するブックレットとして作成されました。
 西山夘三は住居学の創始者です。1994年になくなり膨大な資料を残しました。日本の住居学・住宅政策を形成したといってもよい資料も含まれています。わたし自身は京都大学で彼の授業を受けた最後の学年の学生でした。したがって、研究室に配属されていたわけではありません。しかし、京都大学退職後、旺盛な執筆活動をするとともに、各種のまちづくり運動に参加しました。その場で20年にわたって、わたしは指導を受けました。
 残された資料はNPO西山夘三記念すまい・まちづくり文庫をつくり整理しています。わたしはそこで運営委員長をしており、このフックレットの作成には自分の書いたところだけでなく、細部まで目を通して編集に協力しました。
 彼自身の書いたスケッチが掲載され、それは圧巻で眺めているだけで楽しい本となっています。展覧会と本の全体は住宅論と都市論のうち住宅論に焦点があてられていましたので、わたしが書いた部分は都市論についての補足です。
 住居学や都市計画学は歴史科学でありながら、学術史というかたちで議論が十分に展開されてこなかったといっていいでしょう。そうしたなか西山夘三への関心がここ数年いちだんとつよくなっています。
 2017年度は西山夘三の当たり年で、デルフト工科大学のカローラ・ハイン氏が『地域空間論』の一部を英訳し、11月に出版しました。第一章「生活基地の構造」(1942年)・第九章「国土構成の一試論」(1946年)・第十章「山岳都市論」(1946)と、70年も前の論文が海外で注目されたのです。また西山は389冊におよぶ日記を残しています。その研究も始まりました。


中村 恵信 先生

読書の自由と図書館 : 石塚栄二先生卆寿記念論集 / 石塚栄二先生の卆寿をお祝いする会編著 

大阪 : 日本図書館研究会, 2017.9

 この図書は、「図書館の自由に関する宣言」「図書館の倫理綱領」に深くかかわり、その運用についても造詣の深い、帝塚山大学名誉教授の石塚栄二先生の卒寿をお祝いするために石塚先生の論文を集めて刊行した。石塚先生は「読書」という行為に対する図書館の役割を深く追求され、読書を自由にできない社会は絶対に許されないという信念を持っておられる。このお考えの論文を中心に「図書館の自由を考える」ほか20論文を集め、石塚先生の教えに深い感銘を受けた、図書館学の先生方に特別寄稿をいただいた。構成としては、石塚栄二先生略歴・著作目録、石塚栄二先生主要論文抄、特別寄稿としてまとめた。
 この図書を編集するにあたって、まず、はじめに石塚先生にインタビューを行い足跡を確認し、石塚先生のご自宅の蔵書の調査を行い目録化するとともに、石塚先生の著作の収集も行った。この著作の収集にあたっては、神戸松蔭女子学院大学の文献複写サービスのお世話になり大変助かりました。この刊行されるまでの4年間、毎月1回、石塚先生宅を訪れ、日本の戦後の図書館にまつわる、歴史的な事柄を生の声で伺ったことの意味が大きく、この図書に反映させていただきました。この図書の出版にあたり、印刷所、刊行元、掲載許可の調整等の、図書一冊刊行するにあたっての貴重な経験を行い、図書一冊の重みを実感した。
 この図書の出版記念会も企画して、関係者が一同集まり、石塚先生の卆寿を祝うとともにこの図書をひもとき旧交を深め意義深いものになった。
 是非、この図書を司書養成課程履修学生に読んでもらい、読書の自由の重要性をかみしめていただきたい。

松田 謙次郎 先生

敬語は変わる : 大規模調査からわかる百年の動き / 井上史雄編  

東京 : 大修館書店, 2017.9

 本書は2008年に国立国語研究所が愛知県岡崎市で行った敬語の大規模調査の結果を中心に、一般向けに敬語の現状と実態を解説したものである。調査のセールスポイントは、1953年、1972年、2008年と3回にわたって同一地点での調査が行われており、回答者の中には3回すべての調査で回答した人がいて、55年にわたり敬語行動の同一個人内での変化がわかる、という点である。学生時代に恩師から何度も聞かされた「伝説の調査」に、私自身光栄にも2008年の調査には参加させて頂くことができた。岡崎市内を自転車で駆けずり回って集めたデータが本書に結実したのを目にすると、非常に感慨深い。
 実は岡崎敬語調査は神戸松蔭とも深い縁がある。第1・2次調査で活躍なさった野元菊雄先生は、かつて日本文学科(当時国文科)で教鞭を執っていらっしゃった。第2・3次調査の中心人物の江川清先生のご実家は、松蔭キャンパスから目と鼻の先にある。さらに第3次調査には私以外にも当時日本文学科で教鞭を執っていらっしゃった村上敬一先生や大学院生が参加した。
 私が担当した章は「岡崎敬語調査から学ぶ実時間調査の方法論的落とし穴」であり、今回のように敬語の変化を時間をおいて観測する調査方法には、特有の問題点があることを指摘した。調査メンバーでありながらその問題点を指摘するのは些か気が引けたので、執筆依頼があった際に編者の井上史雄先生に「こういう内容なら書けます」と確認したのだが、自由に書かせて下さった先生の度量の広さには、ただただ頭が下がる。
 調査データは国立国語研究所のウェブサイトで公開されている。私も何度かこのデータを使った分析で国内外の学会で口頭発表を行い、論文を書いた。岡崎敬語調査のデータはまだまだ分析が可能であり、私も現在新たな分析を準備中である。本書は、「岡崎敬語調査をめぐるとりあえずの現状報告」と考えた方がいいのかもしれない。