「第17回 執筆者は語る」 (2017年6月2日~2017年6月30日)
青木 稔弥 先生
近代文献調査研究論集 / 立命館・国文学研究資料館「明治大正文化研究」プロジェクト編
(国文学研究資料館研究成果報告)
人間文化研究機構国文学研究資料館 2016年3月
30年ほど前、大阪女子大学による大阪府立文化情報センター共催の府民教養講座「元禄上方の文化」の講師を3年連続で務めた。毎年5人が講演するという企画で、筆者が担当したのは、その第2回「近松門左衛門をめぐって」、第3回「西鶴の世界」、第4回「芭蕉観のいろいろ」である。
その各5日間の講演は、1年目と3年目の分は公刊されたものの、2年目の分は、録音文字起こしまでしながら、諸般の事情で印刷に付されることのないまま今日に至った。それを今回、良き機会を得て公にした。若干の補正を加えはしたが、9割以上は1988年6月10日午後6時30分~8時15分の講演そのままである。講演内容に古くなった部分は少なく、講演者のみが古くなった感がある。
勤め始めた時の松蔭は、大学名に未だ「神戸」が付かない「松蔭女子学院大学」であった(「神戸松蔭女子学院大学」となるのは1995年4月のことである)。1年目に講演した時の職位は未だ専任講師で、2年目の年の4月に助教授となったのであるが、その「助教授」も今は使わない(「准教授」に置き換わった)。主催者の大阪女子大学は大阪府立大学に統合されて、そのキャンパスは消えてしまったし、ここで紹介することになった講演「明治時代の西鶴復興」の印刷方法も、その前年に講演した「近松と近代文学」(『上方の文化 近松門左衛門をめぐって』912.4/40)、翌年に講演した「『おくのほそ道』二百年」(『上方の文化 芭蕉観のいろいろ』911.32/88)が活字であるのに対し、コンピューターを利用してのものである。時代の変化は著しい。「今は昔」の感慨は尽きない。
奥 美佐子 先生
0・1・2歳児の造形あそび / 奥美佐子著
ひかりのくに 2016年11月
本書は2012年4月から2015年3月までの4年に渡って月刊誌『保育とカリキュラム』(ひかりのくに)に「0,1,2歳児の造形あそび」のタイトルで連載したものを1冊に編集したものです。本書は造形作品を生み出すことのみを目的としたものではありません。事例は日々の保育の中で生まれたものであり、発達に沿った遊びが見通せ、年間の造形活動のデザインが描ける、各実戦から造形活動の本質と子ども理解ができ、造形を通じて保育を創造できる1冊です。
『0,1,2歳児の造形あそび』の「はじめに」にも記していますが、「造形」には表現活動だけではない、人間形成にとって重要な学びの世界があり、0,1,2歳児の造形活動にはその原点となっているものがあるのです。3,4,5歳児の子どもの気付き・試行・思考・挑戦・美しさや不思議を感じる感性や心の育ち、主体的な行動やイメージを実現しようとする力は、実は0,1,2歳時期の多様なものや場に関わる子どもの自発的行為や探索的活動、そこで経験する挑戦、時にはつまずきもするがそれを超えた喜びなどが土台になっているのです。
保育士・保育教諭・幼稚園教諭を目指す学生の学びや、保育所・こども園・幼稚園現場で保育・教育に携わる保育者の実践をサポートする書として役立てていただきたいと思います。
黒木 邦彦 先生
日本語疑問文の通時的・対照言語学的研究研究報告書 / 金水敏編
国立国語研究所 2016年2月
日本語には、程度、樣態、理由などに疑ひを掛ける、附加部相當の疑問形式 (以下「疑問附加部」) が數多存在する。しかし、疑問附加部の?究は、日本語に限らずとも、盛んとは言ひ難く、先行?究も統語意味論に集中してゐる。日本語に關して言へば、疑問附加部の形態的多樣性も?究対象に値すると思はれる。しかし、日本語疑問附加部の形態論は、その形態的多樣性に反して貧弱であり、基礎?究すら缺いてゐる。
そこで、筆者は、本?究計畫において、日本語疑問附加部の形態、統語、意味に關する基礎?究を行なふことゝした。初年度には、当該疑問附加部における形態と意味の關係に着目し、そこに認められる多樣性および一般性を素描した。たゞし、2014年に取り上げた變種數はいつゝに過ぎず、しかも、そのうちみっつは九州方言であった。日本語諸變種を複數扱ふことで見えてきたことは少なからずあったものゝ、日本語一般の現象とまでは言ひ難く、?究の見通しを立てるに留まった。また、その時の?究は、疑問附加部?究の中では比較的進んでゐる統語意味論どころか、統語論的特徴の觀察さへも缺いてゐる。先行?究に據れば、附加部ないしその構成要素に疑ひを掛ける疑問形式は、補部に對するそれとは形態統語上の振る舞ひを異にするやうであるから、統語面の記述を缺いては、?究の進展は望めない。
そこで、本稿では次のことを明らかにし、日本語疑問附加部の基礎?究と爲した。
a. 疑問附加詞として用ゐられる要素のうち、共時的に副詞であるものゝいくつかは、?を含む疑問附加詞に由來する。
b. 《理由》の疑問副詞nadepuは、反語文における連體詞nadepuが獨立して、副詞になったものと思はれる。
c. ika系は著しく衰退してをり、文語色の強いika=niを除けば、鹿兒島縣などにしか見られない。
d. dogai系は關西地方以西に廣く分布してゐる。
e. 《資格》の表現は、N=OBL#ar- 型から { N(=ACC) / doo }#si-te- 型に變化したやうである。
坂本 真佐哉 先生
不登校・ひきこもりに効くブリーフセラピー / 坂本真佐哉編 ; 黒沢幸子編
日本評論社 2016年7月
不登校やひきこもりは今や身近な問題です。どこの家庭にこの問題が生じてもまったく不思議ではありません。そのような問題にブリーフセラピーがどのように役立つのか、役立てているのかについて第一線で活躍している実践家たちに執筆してもらったものです。ブリーフセラピーとは、「短期療法」のことです。心理援助(療法)を効率よく効果的に、そして利用者のニーズに沿った形で実践することを研究する分野です。
わたしが担当している心理療法Ⅲを受講している人や大学院生たちには、学びを深めるのに適しています。
しかし、専門用語などはほとんどでてきませんから、関心のある人は予備知識を問わず読み進めることができると思います。
どうぞ手に取ってみてください。
竹田 美知 先生
よくわかる現代家族 / 神原文子, 杉井潤子, 竹田美知編著
(やわらかアカデミズム・「わかる」シリーズ)
ミネルヴァ書房 2016年5月
初版から7年経過し、古い資料の官庁統計などを改訂し改訂版を出しました。今回の大きな変更点は、授業に使いやすいようにprologueとして学生の皆様の興味をひくような家族や地域に関することわざを入れて、学習意欲を喚起いたしました。それとともにepilogueとして練習問題を用意し課外学習の課題となるような問題をたくさん入れました。
家族に関する教科書として、多くの大学で使用されてきた経験を生かしたものです。特にepilogueに関しては、グループディスカッションの題材となるようなテーマをたくさん取り入れるとともに、ディベートにも使用できるようなテーマにもなっています。
この教科書のいい点は、どのページからでも始められる点です。学生のみなさんの興味のあるページから開いて、家族のことを考えてみる、客観的に捉えてみるといった機会を提供できれば幸いです。
田中 まき 先生
新校注伊勢物語 / 片桐洋一, 田中まき著
和泉書院 2016年3月
在原業平と思しき男を主人公とする『伊勢物語』は、その男の、様々な女性との恋のやり取り、惟喬親王や友人との親愛の情などが描かれた歌物語で、平安時代以来、多くの読者に愛されてきました。かの紫式部や清少納言もこの物語の影響を受けて、『源氏物語』や『枕草子』で言及したり題材として取り入れたりしています。
本書は、その『伊勢物語』の流布本である、藤原定家の天福二年書写本(1234年、鎌倉時代中期書写の本)を室町時代に三条西実隆が忠実に写した本を底本として、それを大学生や一般の方に読みやすいように本文を整え、語釈や語法、和歌の修辞などを頭注に記した『伊勢物語』テキストです。巻末には、人物の関係系図や関連年表、さらに和歌各句索引や語彙索引も付けて、読者の読解を助けるものとなるように工夫しました。
『伊勢物語』の流布本は125章段から成りますが、写本の中には、それら以外の章段を持つ、宮内庁書陵部蔵の阿波国文庫旧蔵本や国立歴史民族博物館蔵の伝為家筆本なども伝わっています。本書には、それらの写本から、流布本125章段以外の19章段も抜き出して付載してあります。これらによって、『伊勢物語』が一時に成立したのではなく、増補、成長した物語であることを、読者の皆さんに実感していただけるものと思います。
徳山 孝子 先生
タカラヅカ・ベルエポック / 津金澤聡廣, 名取千里編著
神戸新聞総合出版センター
~宝塚歌劇の表と裏~
この本を書くきっかけは、創設者・小林一三に関わる書籍を多数出版している津金澤聡廣先生から声がかかったことである。先生は「タカラヅカ文化」研究を発足し、演劇、音楽、映像など幅広い専門家が宝塚歌劇、広い意味では阪急沿線文化や阪神間文化から捉えた研究会を開催したいという。先生からは、宝塚歌劇の舞台衣装について研究してほしいという依頼があった。快く引き受けた理由があった。
当時、毎日新聞社阪神支局が「はんしん版」に「阪神観 街・人・文化」1992年8月~93年9月にかけての1年余り、54回にわたり連載した。記事は、京都大学名誉教授の亡き多田道太郎と演劇評論家の河内厚郎氏との討論をもとに記者が取材して執筆した。恩師である多田道太郎は私の勉強のため、記者の取材に同行させた。連載NO.19(92年12月13日)~NO.24(93年1月24日)は、宝塚文化に関わる記事となった。はじめての宝塚歌劇の舞台裏やリハーサルを取材した。幼少の頃から祖母と一緒に歌劇を見ていたが、舞台裏や楽屋を訪れたのははじめて。今でもその時の興奮は忘れられない。舞台裏では、衣装部を取材した。衣装部は、衣装デザイナーが作品の幕ごとにデザイン画を描き、デザイン画を基に縫製をする。定番の衣装は、今までの衣装をリサイクルすることもあるようだ。トップスターの衣装はオートクチュールである。何回も仮縫いをして出来上がる。靴は、衣装部とは別の部屋で職人さんが一足ずつ作っていた。リハーサルでは、演出家を中心として念入りに立ち位置や踊りをチェックしていた。その時に踊りや立居振舞に支障がある衣装は、手直しの指示があった。当時の裏話は就きないためこの辺りにしておく。
衣装部は歴史がありながら舞台衣装の研究はされていなかった。宝塚歌劇の舞台衣装の原点を探りたいという気持ちが湧き上がった。舞台衣装の文献は、他の分野に比べて少なかったが、フランス・パリのムーランルージュの歴史『Jacques Pessis et Jacques Crepineau Le MOULN ROUGE』をきっかけに舞台衣装の原点が明らかになっていった。
長谷川 誠 先生
大学全入時代における進路意識と進路形成 : なぜ4年制大学に進学しないのか / 長谷川誠著(佛教大学研究叢書 ; 28)
ミネルヴァ書房 2016年2月
選り好みをしなければ、誰もが大学に進学することができる「大学全入時代」が到来したといわれて、およそ10年が経過しました。こうした状況により、高校生の進路選択の幅が広がったことは非常に良いことではありますが、他方で、経済状況や労働環境が激しく変化する中では、その選択幅から何を選び取れば良いのか、難しい状況になっていることも指摘しなくてはなりません。本書では、2010年から2014年の5年間にわたって実施した高校生の進路行動調査の分析から、大学教育に対する社会的価値観の変化や、若年層就職問題が、かれらの進路選択決定に大きな影響を及ぼしている現状を明らかにします。
学生の皆様も、高校卒業後の進路選択の際には、様々な事柄を考慮し、悩み、決断をされてきたと思いますが、そうした一つひとつの決断には、多くの要因が複雑に絡み合っていたのです。本書では、こうした状況を客観的に記述しながらも、その中で、高校生や保護者が進路選択の際に抱いた希望や、悩み、葛藤の様子が記されています。
ここまでの内容だけみれば、少し重たい印象を持つかもしれませんが、興味がある方は、ぜひ手にとってみてください。ご自身の進路選択時の臨場感や空気感を再び思い出しながら、本学を選択した時の新鮮な気持ちに立ち返ってみるのも良いのではないでしょうか。また、現在の若者が置かれている状況を冷静に捉えることで、社会に出ていく準備につなげることができると思います。
学修支援と高等教育の質保証 / 山内乾史編著
学文社 2015年10月、2016年8月
近年、大学教育の質保証への関心は高まる一方です。こうした状況の中、我々、教員の職能開発が義務化され、教員の教育力の向上が求められるようになりました。そして同時に、大学経営をめぐる課題が高度化・複雑化したことで、大学職員の職能開発の重要性も指摘されるようになり、大学運営はもとより、大学教育の質保証のためにそれぞれの専門性を活かしながら、教員と職員が協力し合う、教職協働の視点に立った教育改善が求められるようになったのです。本書では、大学教育を取り巻く現状を背景におきつつ、学生への学修支援について、本学の「松陰GP(Good Practice)」を事例に、教職協働による学修支援における課題と効果を整理し、こうした取り組みが学生にどのような効果をもたらしているのかについて述べています。
このような大学教育の質保証は、何よりも、学生の皆様にとって非常に重要な事柄です。文部科学省は、これからの社会を「変化の激しい社会」とし、その社会を生き抜く力をして、主体性や協働性、課題発見力や課題解決力の必要性を強く訴えています。そして、こうした力を養うための有効な方法として、能動的な学習(アクティブラーニング)を提言しており、本学の「松陰GP」は、まさに、これらの力を養う貴重な取り組みのひとつだといえます。
ぜひ、本書をご一読いただき、社会が求める力とは何か、そのために、今、何をすることが大切なのかについて考えるきっかけにしていただければ幸いです。
花田 美和子 先生
衣生活学 / 佐々井啓, 大塚美智子編著 ; 米今由希子 [ほか] 著
(生活科学テキストシリーズ)
朝倉書店 2016年1月
家政学のなかの一分野である「被服学」の入門書です。執筆者は全国の大学で活躍している被服学の研究者、若手からベテランまでおられますが、すべて女性によるものです。私はこの中で、「衣服の手入れ」という項を担当し、洗濯やしみ抜き・漂白の基礎的な理論と基本的な技術について解説しています。
「被服学」は人の生活と科学技術の進歩にともなって、常に変化していく学問です。そのため、現代の生活に必要な新しい情報を、正しくわかりやすく伝えることを心がけて書きました。しかし、執筆の過程で、これまで人々が長い歴史の中で積み重ねてきた、かけがえのない知恵と技術がたくさんあり、それを伝えることも大切だということに気づかされました。
皆さんも、この古くて新しい被服学の世界に、ぜひ触れてみてください。ちなみにこの本は、都市生活学科1年次の科目「衣生活論」の教科書になっています。
神戸松蔭女子学院大学人間科学部心理学科
暮らしの中のカウンセリング入門 : 心の問題を理解するための最初歩 / 神戸松蔭女子学院大学人間科学部心理学科編
北大路書房 2016年7月
本学心理学科の教員一同が書き上げた心理学についての書籍です。
世間一般では、心理の本は、臨床系の本は臨床の人、基礎心理の本は基礎心理の人のみによって書かれているものが殆どです。なぜならこの二つの領域は、密接な関係がありながらも、学術領域として独立して発展しており、実はあまり交流がないからです。
しかし、この本は臨床系と基礎系の教員、それぞれが自分の専門領域に関することを初学者(高校生や大学生)にもわかりやすく書いた非常に珍しいタイプのものです。臨床のトピックも面白いですが、基礎心理のエッセイはかなりめずらしいので、科学的な心理学に興味をもてるようになるかもしれません。
それぞれの教員が専門分野を面白く説明しているだけでなく、カウンセリング、悩みを解決するヒント等日常にも役立つ内容となっています。特に、将来、カウンセラーや臨床心理士になろうと思う人には、臨床心理士になる方法(進学について)や仕事内容について解説する内容があり、とても役に立つと思います。
心理学になんとなく興味があるかもしれないな、と思う人は一度手に取ってみてください。
2017年度からは心理学科の一年生の基礎演習の教科書にもなっています♪
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