「第16回 執筆者は語る」 (2016年5月10日~2016年5月31日)
本学専任の先生方より図書館へご寄贈いただきました図書を展示いたします。
「執筆者は語る」と題して、ご自分が執筆された図書を紹介してくださいました。
興味を持った図書を読んで、先生に感想を述べてみたり疑問点など質問してみてはいかがですか?
なお展示している本は展示終了後に貸出できます。
(展示中は閲覧のみです。)
打田 素之 先生
「フランスと日本 : 遠くて近い二つの国 / 長谷川富子, 伊川徹, 饗庭千代子編著」
早美出版社 2015年3月
この本は、2004年から2015年まで神戸三ノ宮の国際会館で、日本とフランスをテーマに行われた文化講座の記録です。本の最後にある10年間の記録を見ていただければわかるように、取り上げられているテーマは、両国の文学と芸術はいうまでもなく、歴史・政治・経済などあらゆるジャンルに及んでいます。講師陣は関西在住の「フランス」研究者が中心で、本学で教鞭をとられている先生の名前も見かけられます。実際、谷口千賀子先生は、フランス語の情報伝達のしくみを日本語との比較において論じられ、川口陽子先生はフランスの小学校の教科書を通して、日仏の親子関係の問題に言及されています(不肖打田は日仏恋愛映画の比較を試みました)。
このように、全ての論文が、フランスの文化と社会に言及しながら、日本人と日本文化の姿を浮き彫りにすることを目指して書かれたものです。最近の日本人の関心は、もっぱらアジアの国々に向いていますが、まだまだ私たちはフランスというヨーロッパの大国から学ぶべきものがたくさんあります。そこで、本書はフランスに関心のある方だけではなく、韓国語や中国語を学びながら、アジアの旅行者の動向に興味を持っている人にも、読んでもらえればと思います。きっと新しい発見があるはずです。
奥 美佐子 先生
0・1・2歳児の造形あそび / 奥美佐子著
(月刊保育とカリキュラム ; 2016年3月号臨時増刊号)
ひかりのくに 2016年3月
本書は2012年4月から2015年3月までの4年に渡って月刊誌『保育とカリキュラム』(ひかりのくに)に「0,1,2歳児の造形あそび」のタイトルで連載したものを1冊に編集したものです。本書は造形作品を生み出すことのみを目的としたものではありません。事例は日々の保育の中で生まれたものであり、発達に沿った遊びが見通せ、年間の造形活動のデザインが描ける、各実戦から造形活動の本質と子ども理解ができ、造形を通じて保育を創造できる1冊です。
『0,1,2歳児の造形あそび』の「はじめに」にも記していますが、「造形」には表現活動だけではない、人間形成にとって重要な学びの世界があり、0,1,2歳児の造形活動にはその原点となっているものがあるのです。3,4,5歳児の子どもの気付き・試行・思考・挑戦・美しさや不思議を感じる感性や心の育ち、主体的な行動やイメージを実現しようとする力は、実は0,1,2歳時期の多様なものや場に関わる子どもの自発的行為や探索的活動、そこで経験する挑戦、時にはつまずきもするがそれを超えた喜びなどが土台になっているのです。
保育士・保育教諭・幼稚園教諭を目指す学生の学びや、保育所・こども園・幼稚園現場で保育・教育にわる保育者の実践をサポートする書として役立てていただきたいと思います。
柏本 吉章 先生
「英語のデザインを読む / 沖田知子, 米本弘一共編」
(阪大英文学会叢書 ; 8)
英宝社 2015年10月
英語という言語の魅力を探る視点として「英語のデザイン」に注目した研究を収録しているこの本のなかで、私の論文「対人関係をデザインする英語」では、英語の法助動詞を使った表現が織りなすさまざまな対人関係の様相について考察しています。
たとえば、Must I answer those questions?(その質問にどうしても答えないといけないのですか)と言うと、「そんな質問には答えたくない」「どうしてそんなことを質問するの」といった抗議の態度が示されます。また、I WILL go to the dance!(willに強勢)(ダンスパーティには、絶対行くんだから!)のように話し手の意志を強調する表現は、「余計な口出しはやめて」と聞き手に対する強い働きかけの発言となります。
日常のコミュニケーション場面の中で、話し手が聞き手やその他の人に対してどのような態度をとり、それをどのようにことばに反映させているのか。mayやcan、must、will、shall、would、shouldなど英語の法助動詞が担う「対人関係をデザインする」機能を明らかにしています。
黒木 邦彦 先生
「甑島里方言記述文法書 / 森勇太 [ほか] 編」
国立国語研究所 2015年3月
本稿は,人間文化研究機構連携研究のサブ プロジェクト「鹿児島県甑島の限界集落における絶滅危機方言のアクセント調査研究」(研究代表者・窪薗晴夫) の下,私を中心として2011–14年度の4年間に行なった,鹿児島県甑島里町方言 (以下「里方言」) の文法に関する調査結果をまとめたものである。
本プロジェクトは,危機言語とされる甑島方言の文法を包括的に記述し,その姿を後世に伝えることに重きを置いている。それに対し,これまでの日本語方言研究は,各地の特徴的な言語現象を見定め,それを集中的に研究するという方策を採ることが多かった。また,興味の中心は標準語との違いにあったように思う。そうした部分的な記述から,たとえば,ある音韻規則がどの程度適用されているかを掴むのは難しい。同様の問題は形態論 (動詞の活用や名詞と助詞の融合) などにおいても起こりうる。
日本語学の研究者14名がこのように集まって,一方言の文法を包括的に記述するという試みは,おそらく初めてのものだろう。成員はいずれも方言調査の経験を有しているので,甑島方言の特徴的な言語現象も記述できているのではないかと思う。
本稿は包括的な記述文法書を目指しているが,各々の興味の違いから,調査量や記述精度に相当の偏りが生じている。前述のように研究期間も限られていたため,十分に議論できなかったところや,調査・記述の不備があることも自覚している。それでも,甑島方言の魅力を少しでも早く,そして,多くの人に伝えたく思い,このたび成果報告を行なうに至った。甑島方言の文法記述はこれで終わりではなく,これを第一歩として,さらに精密化・深化させていきたい。
土肥 伊都子 先生
「自ら実感する心理学 : こんなところに心理学 / 土肥伊都子編著」
保育出版社 2016年2月
本書は,初めて心理学を学ぶ,あらゆる学部の大学生のためのテキストとして編集しました。
心理学の領域は非常に多岐にわたっていますが,心理学科の学生をはじめとした多くの学生は,それをほんの半年で一通り勉強しなければなりません。その時大事なことは,知識の習得だけではなく,心理学から自分は何を学んだか,どのように今後の生活に役立てることができるかを考えることだと思います。
そのため本書は,学生たちが心理学を面白い学問だと感じ,自ら心理学を実感し,もっと深く勉強してみたいと思わせる内容を盛り込みました。
本書の特徴がよく表れているのが,各章に2つずつある,2種類のコーナーです。一つ目が「あなたも実感 心理学」です。ここでは,心理学の知識を,日常生活での身近な出来事に置き換えて説明されています。もう一つが「こんなところに 心理学」です。ここでは,以前から見聞きして知っている,一見心理学とは無縁のような教養・知識と心理学の知見が,橋渡しされています。
本書は,心理学科の1年生の専門必修科目の「心理学概論」の教科書ですが,他学科のみなさんも,ぜひ手に取って,心理学のおもしろさに触れてみて下さい。
古川 典代 先生
「シャドーイング・音読でマスターする中国語会話 / 古川典代著」
コスモピア 2015年4月
中国語は、日本人にとっては馴染みある漢字のおかげで読解するのは比較的易しいです。しかしながら音声として認識するとなると、発音すなわち「話す・聴く」が難しい言語です。
そこで、「シャドーイング」と「音読」メソッドを活用して音声認識力を高め、苦手な発音のハードルを下げて、会話力を身につけることを目指して編集しました。社会に出て即座に活用できる想定フレーズを多く盛り込み、簡単な表現で多くのことを語れるように工夫しました。内容に飽きのこないようなストーリー性を持たせたのもそのためです。
話の展開は、主人公の女性が研修のために中国の関連会社に行き、空港からホテルチェックイン、会社での歓迎会などでの自己紹介など様々なシチュエーションを中国語でこなしていきます。そこで知り合った中国人の彼が今度は日本にやってきて、彼を出迎え、観光案内行したり実家に同行したりと、ありそうな展開が満載です。ビジネスへのソフトアプローチともいえる内容なので、肩ひじ張らずに中国語学習に取り組めるのがセールスポイントと言えましょう。
付属のmp3の音源を活用して、「シャドーイング」することで、楽しみながら効率よく会話をマスターしていくことが可能です。さあ、役に立つ中国語会話をモノにしていきましょう!
増永 理彦 先生
「団地と暮らし : UR住宅のデザイン文化を創る / 増永理彦著」
クリエイツかもがわ 2015年12月
UR(都市再生機構、前身は日本住宅公団で1955年創立)が供給してきた公的住宅のストックは、賃貸と分譲等を含めると150万戸を超えている。URは60年間にわたって、日本全国で大都市圏において、住宅産業分野での経済面での寄与だけでなく、集合住宅デザイン分野においても先導的であり続けてきた。
本書では、特に賃貸住宅ストック70万戸に注目し、URが住宅や団地空間における核家族・サラリーマン層の暮らしを徹底的に調査研究し、いかにデザインし先導的な居住空間を創造してきたのか、さらには、デザインと居住者の暮らしとの相互作用によって、どのようにデザイン文化が形成されてきたかを述べた。このことにより、URの公的役割を高く評価すべきことを主張した。
どころが、多くの公的機関がそうであるように、この2~30年間での公的住宅政策の大縮減下で、補助や制度的支援も急減し、反面URの民営化が進展している。今や、民間企業と大差ない。その結果、残念ながらまだまだ必要とされる居住空間の新たなデザインを創りだし、一層のデザイン文化の発展が期待されるべきであるが、それが出来なくなってきている。このような事態をどのように考えるべきか、デザイン文化は不要なのか、民営化をどのように考えるべきか、問題提起を行った書である。
宗像 衣子 先生
「響きあう東西文化 : マラルメの光芒、フェノロサの反影 / 宗像衣子著」
思文閣出版 2015年10月
本書は、19世紀フランス象徴主義の巨匠、詩人ステファヌ・マラルメ(1842-98)について文学的考察を起点に進められた諸芸術(美術・音楽)の相関的研究から、明治近代化の黎明期に、日本の伝統芸術・文化を欧米に紹介してその価値を究めたアーネスト・フェノロサ(1853-1908)との関係へと至るものであり、東西の芸術文化の交流の諸相および日本文化の価値を、現代に向けて照らし出すことを企図しました。
およそここ10年にわたるマラルメ関連の研究の成果、そのエッセンスをまとめたもので、一歩一歩手探りに学びを進めてここにまで辿り着きましたが、我ながらよくまあ遠くまできたものだと感慨深いです。昔から疑問を抱きながら解明には及べなかったものが、一定の全体的視野のなかでいくらか解きほぐせたかなという感触と同時に、さらに遥かに茫洋たる先を見る思いがします。歴史や文化の学びの果てしなさを実感しています。
今後は、お絵かきや楽器や作文などの手作業、実技実践を加えながら、本書につないでゆきたいと考えています。そうすることで現代文化の理解がふくらみ、より豊かになるのではないかと期待しています。またこうしたことが、私が所属する総合文芸学科における教育活動の基盤として生かせればと願っています。
山内 啓子 先生
「KELT 30号 Kobe English Language Teaching」『フィリピンの英語指導者養成』
神戸大学大学院教育学研究科英語教育研究会 2015年
フィリピンはダイビングやリゾートのイメージを持つ学生が多いかもしれませんが、実は英語や英語教育と非常に密接な関連性を持つ国です。
歴史的には1898年にそれまでのスペインからアメリカに統治が移ったために言語は英語が中心となり、それが現在まで継続していますが、今日的な課題として母語の強化という日本とは反対の課題を抱えているのです。2011年から段階的に導入されている多言語教育は小学校3年生までは母語教育を強化させて全科目を母語で指導、同時に国語教育も行い、その後英語での指導に変るという複雑な教育政策を取っています。母語と国語が異なる、というのもフィリピンは7000以上の群島から成り、国語と制定されたフィリピノと母語言語を異にする民族集団が多く、国内には186の言語集団があり19の主要母語が存在するため、公用語は英語になるという多民族国家の事情があります。
母語を強化する改革の必要性があるほど英語が浸透しているフィリピンの英語教員養成の手法を検討することは、日本の英語教員養成の充実をはかる上で有意義なことでしょう。そのために現地調査を行いその手法を検討、考察したものが本稿です。
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