神戸松蔭女子学院大学図書館 今月の展示

『不思議の国のテニエル』
〜挿絵画家ジョン・テニエル死後100年〜

 (2014年10月1日〜10月31日)

今日の「不思議の国のアリス」のイメージはテニエルの挿絵によって形作られたと言っても過言ではありません。
同時代の挿絵画家の作品と共に、テニエルが生み出した不思議の国の世界を少しだけ覗いてみませんか?

ジョン・テニエル (John Tenniel) (1820年2月28日 - 1914年2月25日)
イギリスのイラストレーター
ルイス・キャロルの児童文学『不思議の国のアリス』および『鏡の国のアリス』の挿絵を手がけたことで知られる。
 カトリックとの対立のため風刺漫画誌『パンチ』を去ったリチャード・ドイル (Richard Doyle/アーサー・コナン・ドイルの叔父)の代わりとしてマーク・レモン (Mark Lemon) に誘われ同誌に参加し、1850年から約50年間にわたり約2300もの風刺漫画を手がけた。
 『不思議の国のアリス』著者のキャロルは挿絵に関して大変なこだわりを持っており、テニエルに多くの要望を出し、満足のいく仕上がりになるまで何度も修正させた。キャロルとのやり取りに心労を覚えたのか、『不思議の国のアリス』刊行から6年後に続編『鏡の国のアリス』の挿絵の依頼が来たとき、テニエルは依頼を断っている。
 しかし、代わりの画家が決まらず、最終的にテニエルが挿絵を引き受けることになり、これが彼の最高傑作と評されることになった。テニエルの描いた挿絵は物語と見事に調和し、「アリス」のイメージを決定づけた。

テニエルトリビアその1
 著者のルイス・キャロルよりも有名だった!
アリスの著者キャロルから挿絵の仕事を依頼された時、すでにテニエルは押しも押されもせぬ週刊風刺漫画雑誌『パンチ』の看板画家でした。

テニエルトリビアその2
「アリス」以降挿絵の仕事をすることは無かった!
 足かけ7年にわたって「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」の挿絵を描いたテニエルでしたが、疲れ果て、この2作品以降挿絵の仕事は引受ませんでした。

テニエルトリビアその3
雑誌「パンチ」に挿絵のソースがたくさんあった!
   双子やハンプティ・ダンプティ、三月ウサギ等の原型が「パンチ」誌に掲載されていました。 また、ハートの女王の法廷も実は同僚ベネットのイソップ童話の口絵のオマージュでした。

●『不思議の国のアリス』が出版された1865年はヴィクトリア女王の治世真っただ中で、沢山の植民地を擁し、産業革命もあいまってイギリスが大英帝国として最も輝いていた時代でした。
●当時、こども向けの本といえば、教訓を含んだ道徳的な内容のものがほとんどでしたが、純粋にこどもを楽しませるために書かれた『不思議の国のアリス』の登場は児童文学の新たな幕開けとなりました。

【テニエルと同時代の挿絵作家達】

アーサー・ラッカム(Arthur Rackham) (1867〜1939)
テニエルの死後に「アリス」の挿絵を描いた。他にも「グリム童話集」「ガリバー旅行記」「ピーターパン」「マザーグース」等が有名で、非現実的な人物や生物を絵画化した想像力は抜群。
ギュスターヴ・ドレ(Paul Gustave Doré) (1832〜1883) フランスのイラストレーター、画家。数多くの古典文学作品に、想像力豊かな挿絵を描いた。「神曲」「旧&新約聖書」「失楽園」「赤ずきん」「眠れる森の美女」等多数の名作がある。
シドニー・パジェット(Sidney Edward Paget) (1860〜1908) コナン・ドイル著「シャーロック・ホームズ」シリーズの挿絵で知られている。ホームズに鹿撃ち帽とインヴァネス・コートを与え、後世の小説、映画、戯曲などの二次作品におけるホームズ解釈に多大な影響を与えた。

参考文献:谷田博幸(1993)『ヴィクトリア朝挿絵画家列伝』図書出版社

[展示資料一覧]
ヴィクトリア朝挿絵画家列伝 : ディケンズと『パンチ』誌の周辺 / 谷田博幸著 [020.8/8/12]
ヴィクトリア朝を代表する挿絵画家の生涯を追う。テニエルも参加した『パンチ』誌や小説家ディケンズについての記述も。

イギリス挿絵史 : 活版印刷の導入から現在まで / 平田家就著 [726/57]
約500年にわたるイギリスの挿絵史について、詳しく書かれている。

不思議の国のアリス / ルイス・キャロル [著] ; 河合祥一郎訳 (角川文庫 ; 16146) [角川文庫/キ1/1]
鏡の国のアリス / ルイス・キャロル [著] ; 河合祥一郎訳 (角川文庫 ; 16147) [角川文庫/キ1/2]
テニエルの挿絵を全点収録した新翻訳版。

子供部屋のアリス / ルイス・キャロル著 ; ジョン・テニエル絵 ; 高橋康也,高橋迪訳 [J-B/389]
『不思議の国のアリス』を、キャロル自身が「0歳から5歳」の幼児向けに短く翻案したもので、『アリス』の特徴である言葉遊びやパロディなどを押さえ、子供に語りかけるような易しい文体で書き直されている。

The nursery "Alice" : containing twenty coloured enlargements from Tenniel's illustrations to "Alice's adventures in wonderland " with text adapted to nursery readers / by Lewis Carroll ; [illustrated by John Tenniel] ; the cover designed and coloured by E. Gertrude Thomson (複刻世界の絵本館 : オズボーン・コレクション) [909.3/199/31]
『子供部屋のアリス』の言語版。挿絵は原著に使われた白黒の挿絵から20の場面を選び、テニエル自身が彩色を施している。ただし表紙絵はテニエルではなく、キャロルの友人のE.ゲルトルード・トムスンが手がけた。

ペローの昔ばなし / シャルル・ペロー著 ; ギュスターヴ・ドレ挿画 ; 今野一雄訳 (白水Uブックス ; 163) [白水Uブックス/163]
フランスのシャルル・ぺローによる童話集で、民間伝承を、当時の風俗を反映させるなど子どもにも親しみやすく書かれている世界初の児童文学。赤ずきん、長靴をはいた猫、眠れる森の美女、シンデレラ等が収録されている。ドレが1867年に挿絵を付けて出版した。

名画でたどるバイブル / ギュスタ-ブ・ドレ[画] [193/97]
1866年に初版が出版された、ドレのロマン主義的な想像力によって構成された聖書画。原本は旧約・新約の二巻で240枚近くの木版画の挿絵が入っている。

マザー・グース / アーサー・ラッカム絵, 寺山修司訳 [767.7/22]
英語の口承童謡。イギリスではナースリー・ライムnursery rhymeという。民衆の間で口伝えに受け継がれてきたもの,宗教的儀式や民族的行事にともなって歌われる俗謡,数え歌,なぞなぞ歌,早口言葉・言葉遊びの歌などのほか,ジェイン・テイラー作『きらきら星』のように作者が知られているものも少数ある。

赤ずきん / ヤーコプ・グリム, ヴィルヘルム・グリム著 ; アーサー・ラッカム絵 ; 池内紀訳 (グリム童話集 / ヤーコプ・グリム, ヴィルヘルム・グリム著 ; アーサー・ラッカム絵 ; 池内紀訳 ; 2) [J-B/391/2]
グリム兄弟編の童話集でドイツの民間に伝わったものを中心に、民話約二五〇編を収めたもの。「赤ずきん」「白雪姫」「ヘンゼルとグレーテル」など。本書は1909年にロンドンで英訳した60話の童話に、ラッカム白黒の挿絵55点と彩色挿絵40枚をいれたものの日本語訳版である。

バスカヴィル家の犬 / ア-サ-・コナン・ドイル著 ; 小林司, 東山あかね訳 (シャ-ロック・ホ-ムズ全集 / ア-サ-・コナン・ドイル著 ; 小林司, 東山あかね訳 ; 5) [933/800/5]>
ドイル著の推理小説で1902年出版。原題《The Hound of the Baskervilles》。ダートムアのバスカヴィル家に伝わる魔犬伝説に名探偵シャーロック・ホームズが挑む。本書は「シャーロック・ホームズ物語」初版本のパジェットによるイラスト全てを復刻掲載している。

図説シャーロック・ホームズ / 小林司, 東山あかね著 (ふくろうの本) [080/35/294]
小説を読んだだけでは想像し辛い、登場人物のキャラクターや背景のヴィクトリア朝の風物、建築物などを写真やイラストでまとめた図説本。パジェットのイラストも多数掲載されている。

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