神戸松蔭女子学院大学図書館 今月の展示

「第13回 執筆者は語る」  (2014年2月3日〜2014年4月30日)

本学専任の先生方より図書館へご寄贈いただきました図書を展示いたします。
(2013年12月までのご寄贈分です。)
「執筆者は語る」と題して、ご自分が執筆された図書を紹介してくださいました。
興味を持った図書を読んで、先生に感想を述べてみたり疑問点など質問してみてはいかがですか?
なお展示している本は展示終了後に貸出できます。 (展示中は閲覧のみです。)




松田 謙次郎 先生

「はじめて学ぶ社会言語学 : ことばのバリエーションを考える14章」          

ミネルヴァ書房 2012年2月

 この本は「変異理論」という社会言語学の流れに属する学者が集まって作り上げた入門書である。悲しいことにこの「流派」は、私が院生になって始めた時から今に至るまでずっと日本の言語学会ではマイノリティであり、この考え方に従って研究をする学者の数は日本全国でせいぜい10人足らずである。しかし変異理論は欧米では確固たる地位を占めており、専門の学会もあったりして盛んに研究が進められている。マイノリティである我々はこうした内外の温度差にずっと苛立っており、その苛立ちがこの入門書を作る一つの原動力になっていた気がする。変異理論は社会学・統計学的なアプローチで言語のバリエーションや変化を探ろうとする学問であり、決して難しい話ではない。データの集め方から分析法まで易しく説いたこの本で、少しでも日本人研究者が増えることを妄想している今日この頃である。

「現代日本語の動態研究- サ変動詞の五段活用化・ 上一段活用化の現状」          

おうふう 2013年10月

 難しそうなタイトルだが、簡単に言えば「今の日本語がどのように揺れているのか」を詳しく分析した論文集である。国立国語研究所のプロジェクトで、数年間定期的に開催してきた研究会で発表し討論してきたものをまとめている。執筆者は国語研の研究者のほか、全国の大学の研究者とNHK放送文化研究所で放送の言葉を研究していらっしゃる塩田雄大さんが参加している。全員が言葉に相当なこだわりを持つ研究者ばかりであり、一度研究会後の飲み会で東京は立川の居酒屋に立ち寄ったとき、メンバーの誰かがメニューにある「アスパラのベーコン巻き」を見とがめ、「ベーコンのアスパラ巻き」ではないかという言い始め、さらに「煮やっこ」とは何かという問題(ちなみに肉豆腐の肉抜きであることが後に判明した)も持ち上がり、オーダー前に30分ほど全員で辞書を引きつつ議論を重ねたことがある。そう、我々にとっては居酒屋のメニューですら立派な研究資料になるのであり、そういう議論が大好きな研究者が作り上げたのがこの論文集なのである。




片岡 利博 先生

「異文の愉悦 : 狭衣物語本文研究 / 片岡利博著」

笠間書院 2013年10月

 この十年ほどの間に考えてきたことをまとめた、私にとって二冊目の研究書です。源氏物語をはじめとする平安時代物語の「作者自筆本」は一ページたりとも残ってはいません。残っているのは手書きで写された、はるか後の時代のテキストで、写し継がれていくうちに作者以外の人々によって何度も書き変えられたものばかりなのです。従来の研究では「残っているテキストのうちのどれが原本にもっとも近いか」ということばかりが問題にされてきたのですが、本書はむしろ、「原本がどのように書き変えられてきたか」をテーマにしています。現代の小説などとはちがって、写されるたびに変容していくのが平安時代物語の大きな特徴だったからです。
 今私たちが読んでいる源氏物語五十四帖は、紫式部の書いた源氏物語とはずいぶんちがったものになっているだろうと、私は考えているのです。



田中 まき 先生

「八雲御抄の研究 : 名所部・用意部 / 片桐洋一編 ; 青木賜鶴子 [ほか執筆] (研究叢書 ; 431)」 

和泉書院 2013年2月

 『 八雲御抄やくもみしょう』は鎌倉時代の初め、順徳院によって著された歌学書です。14歳で天皇に即位した順徳院は、和歌に優れ、学問に熱心な天皇でした。承久の乱によって、佐渡へ配流され、在島21年、その地で崩御されましたが、その間、『八雲御抄』の執筆を続けられたのです。 『八雲御抄』は膨大な歌語や歌枕が集成され、歌会や歌合の故実、歌論などがまとめられていて、和歌の知識の集大成ともいうべき大著です。私はこの『八雲御抄』の研究会に20年以上所属して、これまでに、この書の主要伝本の翻刻や研究を重ね、研究書を3つ刊行してきましたが、今回の本がその最後を飾るものです。  今回の本の「名所部」では歌ことばの重要な要素である「歌枕」すなわち地名が集められており、これらの出典や用例について探究し、「用意部」では順徳院の和歌観やこの時代の和歌の様相を、先行の歌論と比較しながら論じました。学生の皆さんの和歌研究の一助になれば幸いです。

「宗達伊勢物語図色紙 / 羽衣国際大学日本文化研究所伊勢物語絵研究会編」 

思文閣出版 2013年2月

 「風神雷神図屏風」で名高い近世初期の大画家である俵屋宗達の工房で、江戸時代前期(17世紀前半)に制作された『伊勢物語図色紙』についての研究書です。
 これらの色紙には『伊勢物語』の中から選ばれた場面が描かれ、59図が現存しています。これらは現在、国内外にばらばらに所蔵されていて、これまで、まとまって紹介されることがありませんでしたが、本書では、近年発見された色紙も含めて、59面のすべての色紙をカラ―、原寸大で掲載しています。また、色紙に描かれた『伊勢物語』の世界の解釈を示し、その他の伊勢物語絵巻・絵本と比較対照しながら、その構図と技法などについて、本色紙の特徴を論じました。
 『伊勢物語』をどのように読み取って、どのように描いているか、それぞれの絵を楽しんで観賞してみてください。





宮本 憲 先生

アダム : 神の愛する子 / ヘンリ・J.M.ナウエン著 ; 宮本憲訳

聖公会出版 2013年1月

 『著者はオランダ出身のカトリック司祭(1932-1996)。イェール、ハーバード両大学で教えた後、晩年の10年間をカナダのトロント郊外にある知的障碍者の施設「ラルシュ・デイブレイク」で牧師として過ごしました。キリスト者の生き方や祈りに関する彼の数多くの著作は大変読みやすく、世界中の多くの人々に愛読されています。
 デイブレイクには、アダム・アーネットという重度の障害を持つ青年がいました。話すことも一人で動くこともできませんでしたが、デイブレイクを訪れる人々の多くに、彼との出会いにより癒され、生きる意味を発見するという神秘的な体験が起こったのでした。
 本書で著者は自らのアダム体験を通してその神秘を語り、考察を加えます。彼の語りを通して、読者もまた人生の神秘についての考察へと誘われます。人生とはなんだろう、癒しとはなんだろうと思い巡らしている現代の若い人たちに是非とも読んで頂きたい書物だと考えています。
 なお、表紙絵と扉絵はデイブレイクの現メンバーに改訂新版のために描いて頂きました。





竹田 美知 先生

グローバリゼーションと子どもの社会化 : 帰国子女・ダブルスの国際移動と多文化共生 / 竹田美知著

学文社 2013年10月
 
 この本は、私の経験が研究動機となり、その後の多くの方々の協力により完成しました。創立当時から異文化理解を進めてきた松蔭で、本年、研究成果公開発表特別助成を受けて発刊できたことも、私にとって運命を感じました。家族を連れて、渡米してからはや約25年経ちます。その時の現地での経験をもとに、国際移動を経験した多くの方へのアンケート調査やインタビュー調査をしてきました。松蔭の学生の皆さんがこの本を読んで一人の小さな疑問が、社会調査をいう手続きを経て論文となるプロセスを体感していただければ幸いです。





溝畑 秀隆 先生

特集味の不思議 (JOHNS : Journal of Otolaryngology, Head and Neck Surgery ; Vol.29No.1(2013-1))  

東京医学社 2013年1月

 一般に、妊娠期間中は味覚や食物の嗜好が変わるといわれています。味覚は口腔内の舌面,口蓋部,咽喉頭部の受容器と化学物質の接触によって起こる感覚であるが,特に舌における感覚が主たるものです。妊婦と一般女性を対象に、5基本味質,「甘味:ショ糖」,「塩味:塩化ナトリウム」,「酸味:酒石酸」,「うま味:L-グルタミン酸」,「苦味:塩酸キニーネ」を用いて、体内の生理的変化が味覚に及ぼす影響について、味覚閾値の年間推移について執筆した。




松岡 靖 先生

希望をつむぎだす幼児教育 : 生きる力の基礎を培う子どもと大人の関わり / 鬢櫛久美子, 石川昭義編著 (現場と結ぶ教職シリーズ / 全体企画者小柳正司, 山崎英則 ; 7)  

あいり出版 2013年7月

 2011年秋に大学の先輩から「幼児教育と経済」という原稿を頼まれました。やや珍しいテーマなので迷いましたが引き受けました。なぜなら二つのキーワードを思いついたからです。
 一つ目は Warm Heart and Cool Head. この松蔭には温かい心を持っている学生が多い、といつも私は感じます。おそらくこれは周りの大人が皆さんに贈ったギフトでしょう。ただ今後の世の中で幸せになるには、冴えた頭も必要でしょう。こちらは本人の努力で伸ばせるはずです。
 二つ目は働くことへの希望。ある学生いわく「私たちが生まれてから好景気なんかなかった」。確かにこの二十年余り、日本も世界も経済的には不調のようです。それでも二十歳前後の世代にとって、働く希望がないまま生きていくのは辛すぎます。なんとか自前の希望を編み出してください。
 




中林 浩 先生

人間的な経済社会をめざして/ 京都自治体問題研究所京都府政研究会編 (京都府政研究2014 ; シリーズ2)  

田中プリント 2013年12月

 京都府政研究会の5冊のブックレットのひとつ。3・11により経済成長至上主義、過度の競争と効率優先、大量生産・大量消費・大量廃棄に特徴づけられる社会経済システムの大きな転換が迫られている。そうしたなか人間的な新しいシステムを京都府を題材に考えようとしている。
 わたしが担当したのは第3章で、「観光の展開と地域循環型経済」。バブル経済のころ、全国のリゾート構想はことごとく破綻したことに学び、あらためて一過性の大規模開発による観光のあり方を問うている。京都府や京都市が観光客の入り込み数だけを指標としていたり、富裕層むけ観光を重視したり、「観光資源」が重要だといいながら文化財の軽視し破壊していることを批判している。究極の観光は、地域の人びとの日常生活と生業の姿、いいかえると地域循環型経済の姿を見せることだという論理を展開している。

暮らしを支える京都府であるために : 京都府の存在意義と府政のあり方を考える / 京都自治体問題研究所京都府政研究会編 (京都府政研究2014 ; シリーズ1)  

田中プリント 2013年12月

 わたしが理事長を務める一般社団法人「京都自治体問題研究所」というのがある。そのなかに京都府政研究会を設けて、4年ごとに出版をくり返している。今回は5冊のブックレットを完成させた。
 この巻では「研究会を代表して」というあとがきと、「甲子園は都道府県対抗」というコラムを執筆している。
京都府では事業所数の減少、非正規雇用の拡大など、経済の落ち込みが激しい。また、京丹後市の米軍レーダー基地建設問題、原発に隣接することによる原発事故の危険性など府民の安全が脅かされいる。現京都府政が住民の暮らしを守る防波堤としての役割を十分果たしていないことを批判している。道州制が導入がもくろまれるなか、京都府の存在意義をあらためて論じている。
 わたしのコラムは府県がなくなると高校野球さえ盛り上がりに欠けることになるのではという皮肉を語っている。
 




増永 理彦 先生

マンション再生 : 二つの"老い"への挑戦 / 増永理彦著  

クリエイツかもがわ 2013年10月

 マンションに住んでおられる方も多いのではと思います。今やマンション(分譲の集合住宅)は、全国で600万戸ほどあり、そのうち建設後30年以上経過し耐震性に問題がありそうなものも100万戸越えました。ところが、建て替えられたのはこのうち1万戸強、1%程度です。このことが大事なのですが、建て替えは極めて難しいということです。この高経年マンションは居住者も高齢化が進んでいて、建て替えの困難さも含め、その再生について国民的な課題になっています。どのように、この問題を解いたらいいのか、御一読いただき考えてみていただけると、うれしいです。