「『伊勢物語』に描かれた「富士山」」
(2013年7月21日、2013年7月28日、2013年9月8日)
平安時代の物語『伊勢物語』には、在原業平とおぼしき主人公の恋や友情が描かれているが、その『伊勢物語』には、主人公の男が東国を旅し、夏なのに、雪が積もっている富士山に驚いて、歌を詠む場面がある。
【第九段本文】
富士の山を見れば、五月
のつごもりに、雪いと白う降れり。
時知らぬ山は富士の嶺いつとてか鹿
の子まだらに雪の降るらむ
その山は、ここに例へば、比叡の山を
二十ばかり重ねあげたらむほどして、なりは塩尻のやうになむありける。
【通釈】
富士の山を見ると、五月の末(旧暦では夏)であるのに、雪がたいそう白く降っている。
時節を知らない山は富士の嶺であるよ。いつたい今をいつと思って、このように鹿の子まだらに雪が降っているのだろうか。
その山は、ここ(京都)において例えると、比叡山を二十ほど重ね上げたと思える高さで、姿は塩尻(海浜で製塩する時に用いる砂山)のようであった。
『伊勢物語』の絵巻や絵入り版本、かるたには、山頂に雪の残る富士山とそれを遠望する主人公一行が描かれている。中には、物語の内容とは無関係に、噴煙を上げる富士山が描かれているものもある。富士山は平安時代から江戸時代に何度も噴火し、それを詠んだ歌も多くあり、立ち昇る噴煙が描かれた絵も見られる。
〜展示資料〜
●(複製)伊勢物語絵巻 [専用図書]
『伊勢物語』は平安時代の物語だが、これを描いた絵巻は、鎌倉時代のこの久保惣本の『伊勢物語絵巻』が現存最古。
●伊勢物語の奈良絵本 [請求記号:913.32/93]
江戸時代前期に書写された『伊勢物語』の奈良絵本。絵は上質の絵の具で細部まで描かれ、本文の書かれた料紙にも草花などの下絵が施された美麗な本。
●伊勢物語かるた[請求記号:913.32/83]
百人一首』のほかにも、江戸時代になると、『伊勢物語』『源氏物語』などの物語や『古今和歌集』など歌集の和歌かるたが作られた。
●伊勢物語の絵入り版本
もともと書写されていた書物が、江戸時代になると、印刷されるようになった。『伊勢物語』は人気が高く、絵入りの版本が次々に刊行された。
「伊勢物語抄」菱川師宣 画 刊行年不明(1600年代後半) [請求記号:913.32/44]
「新板絵入伊勢物語」下河邊拾水 画 明和四年(1768年)刊行
[請求記号:913.32/63]
「新注絵入伊勢物語改成」元禄十一年(1698年)刊行
[請求記号:913.32/81]
(本学教員)
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