神戸松蔭女子学院大学図書館 今月の展示

「第10回 執筆者は語る」 (2011年2月1日〜2011年4月30日)

本学専任の先生方より
図書館へご寄贈いただきました図書を展示いたします。
(2010月12月までのご寄贈分です。)
「執筆者は語る」と題して、 ご自分が執筆・翻訳された図書を紹介して下さいました。
興味を持った図書を読んで、先生に感想を述べてみたり、 疑問をぶつけてみてはどうでしょうか?

郡司 隆男 先生
「言語のレシピ : 多様性にひそむ普遍性をもとめて / マーク・C. ベイカー [著] ; 郡司隆男訳
請求記号:岩波現代/1/247  配架場所:第1書庫1層,文庫新書コーナー

 生成文法理論の中で研究をしている言語学者ベイカーの初めての一般読者向けの書であり、言語学の知識がなくとも、少しずつ、大事な考え方に導かれるように書かれている。それでいてかなり高度なことにも触れ、読者にとって得るところの多い書である。数多くの言語の例文も豊富であり、日本語の例も多い。
 本書は、単に、いろいろな言語のいろいろな話を雑学としてまとめたものではなく、言語研究の永遠の課題である、普遍性と個別性のバランスをどうとるかという大問題に関する1つの回答を与えることを目的としている。
 生成文法は言語を作り出す文法の普遍性を前提とし、各個別言語を普遍文法に対するパラメータの違いとして関係づけようとする。日本語と英語は,パラメータという観点からは,重要な点で異なる言語であるが、このような言語の両方を同じように分析できるのは、生成文法という方法論の利点であり、本書はそのよい実践例となっている。

藤本 浩一 先生
『乳幼児期の自閉症スペクトラム障害 : 診断・アセスメント・療育 / カタルツィナ・ハヴァースカ, アミ・クリン, フレッド・R・.フォークマー編 ; 竹内謙彰, 荒木穂積監訳
請求記号:493.7/526 配架場所:第1書庫2層

 イェール大学(米)の自閉症児研究・支援プロジェクトの代表者らによる本書の翻訳を、先輩らのグループで引き受けました。私が分担した第9章は様々な民間療法の効果を科学的に検証するものです。それらの療法は、刺激づけという点で効果的な場合がある反面、時間とお金がかかるだけであまり役立たないこともあるようです。本書ではしっかりした支援方法を組み合わせたアプローチを 紹介しており、アメリカ各地でのこうした組織的な組み合わせ治療法の進展、および今後日本への本格的な導入が期待されます。代表者のカーシャさん(カタルツイナ・ハヴァースカ)がご夫君と共に日本に来られて講演されたときに同席した出版パーティ(実は京都の居酒屋でしたが)では、(私の)不十分な英語でも親しくお話が出来て、2人の息子さんの母としての素顔が見れて、とても親しみを感じた次第です。自閉症の本格的な研究書である本書を一度手に取って見て下さい。

東 豊 先生
家族療法の秘訣 / 東豊著
請求記号:146/1025 配架場所:第1書庫1層

 心の問題に対する臨床心理学的なアプローチは多岐に及ぶ。臨床心理士である筆者はそのひとつである「家族療法」を約30年間に渡り研究・実践してきたが、本書は、この間に様々な専門誌に掲載された12本の論文に 新たな書下ろし1本が加えられた、計13本からなる論文集である。家族療法とはどのような方法論であるのか、不登校や摂食障害などの事例をもとに、平易な文章でつづられているので、大学生・大学院生にもすぐに理解できる(はずだ)。また、一般の人々が読まれても、「家族」に対する新たな視点が得られるので、日々の家庭生活に良い影響を及ぼすはずだ。そして何より、「常識」にとらわれない新しい「ものの見方」に出会うことが、読者一人一人の頭の体操につながるだろう。本書は心の柔軟体操のような本なのである(たぶん)。乞うご一読。

山内 啓子 先生
女性・演劇・比較文化 / 丸橋良雄編著
請求記号:770.4/56 配架場所:第1書庫3層

 この本は標題の通り多岐にわたった分野をそれぞれの担当者が執筆をした共著です。
 その中で私は「比較文化」の分野で『米食の異文化』と題した小論を書いています。
 これは異文化研究のアプローチを言語表現に特化し、比較を通した「米食」を中心にして異文化を考察したものです。日本人にとって米食は日々の生活から切り離すことのできない、もっとも身近なものですが、その「米」や「ごはん」を、少し視点を変えて他文化との比較で捉えたことがあるでしょうか。そもそも主食とともに副食・副菜を摂る食事形態は少数で、食に主・副という概念がない場合の方が多いのです。
 アジアで発生した米食文化は、言語や表現から連鎖的に社会背景や文化の変容を浮かび上がらせます。それらを通して文化伝播の一端を解明するとともに、米食文化との対比に焦点を当てた英語表現からは、特定の食材の 特性から共通の教訓を読み取ることもできます。食の異文化は奥が深いです。


吉井 健 先生
ガイドブック日本語文法史 / 高山善行, 青木博史編
請求記号:815/384 配架場所:第1書庫3層

 このガイドブックは、「係り結び」「活用」「待遇表現」など、伝統的な国語学のテーマとともに、「ヴォイス」「アスペクト・テンス」「モダリティ」「とりたて」など、    現代日本語研究の枠組みも取り入れて章を立てています。古典日本語になじみのない人にも気軽に手にとってもらいたかったからです。それぞれの章では、平安時代のことばをベースにしてテーマとなる文法事項を解説し、「史的変遷のポイント」で歴史的変化を簡単にまとめています。さらに「研究テーマ」でこれまでの研究の流れや今後の課題を示しています。
 他の執筆者といろいろ議論しながら作りましたが、そんなふうに作っていると、 どの章もつい規定を越えて長くなりがちでした。テキスト版なので、あまり詳しいのも使い勝手が悪いことに気づき、最後になって、編者の強力な指導のもと、各章をかなりスリムにしました。本書を入り口として、古典語の文章に現れた昔の人々の物事のとらえかたや、考え方にふれていただければ幸いです。

松田 謙次郎 先生
敬語と敬語意識 : 愛知県岡崎市における第三次調査 / 研究代表者杉戸清樹
請求記号:815.8/32 配架場所:第1書庫3層

 この調査はタダの敬語調査ではない。なんと1953年以来、ずっと継続している調査なのだ。調査対象者の中には、この最初に参加して以来3度の調査すべてに参加している方もいらっしゃる。つまり0代の終わりか20代の初めにこの調査に協力されてから、70・80代となった今までずっと協力していらっしゃるのだ。調査目的の一つは、こうした方々の観察から、人の一生で敬語がどのように変化をするのかを見極めるということであるが、こうした調査は世界的にもほとんど例がなく、きわめて貴重な調査であると言える。
 実は松蔭はこの調査とは縁が深い。かつて国文科で教鞭を執られた野元菊男先生は岡崎調査の中心中枢にいらっしゃったし、今回の調査でも私以外にも国文科の村上敬一先生が、そして大学院生2名も参加している。調査には全国から研究者が参加したが、これほどの人間が関わった大学はない。この報告書は「輝く松蔭」を証明するものなのである

松岡 靖 先生
最新保育テキストブック3『教育原理』 倉戸直美, 岡田裕編
請求記号:371/119 配架場所:第1書庫2層
 保育士をめざす人のためのシリーズの一冊。私が書いた第2章は、大学で 深刻な私語への対策を手始めに、「教育原理」らしい三つのパートで進みます。一番目に近代欧米の教育理論を紹介します。二番目に現代日本の教育問題を整理します。三番目に保育所保育指針と幼稚園教育要領を読み比べます。
 「教育原理」という私の授業で学んだ人は、その中身と第2章が似ていると 気付くでしょう。やはり科目名と書名が同じで、しかもコンパクトにまとめようとすると、それほど違った内容にはできません。
 ただしこの2年間で、保育所と幼稚園をめぐって、社会や政策は変わり続けています。幼保一体化の計画、子ども士の資格、教職免許法の改正。勉強すべき内容も増えました。大変な時代に生きる皆さんに、この本が役に立つよう、著書の一人として願っています。もちろん質問は大歓迎!


中林 浩 先生
子どもが育つ生活空間をつくる / 小伊藤亜希子, 室崎生子編
請求記号:369.4/188 配架場所:第1書庫2層

 子どもがすこやかに発達する条件が、ますます悪くなっている日本の現状に対しての提言の書です。つぎのような3つの視点を提示しています。@子どもにも大人にも居心地のよい近隣が豊かにあること、Aまとまりのある生活圏と地域の行事や祭など共同のとりくみのできる人間関係が構築できるしくみのあること、B子ども自身が発達する力を育む環境をつくり出すこと。国・自治体の制度と重ねて、各地での学童保育所や地域のとりくみの事例を紹介しています。 先進例としてニュージーランドのプレイセンターやデンマークのデイケアマザーなどもとりあげています。
 わたしが担当したのは「都心居住地の蓄積が生む生活空間の豊かさ」という章です。京都市の都心居住地北東端の小学校区を例に、きわめて多様な空間がいかに重要かを書いています。商店街・コーポラティブハウス・社寺仏閣の 意味を問うています。同時に、強引な学校統廃合をはじめ京都市の教育行政の貧しさを批判しています。

勝木 洋子 先生
住民参加・参画のまちづくり : 地域福祉新時代への挑戦 / 勝木洋子, 永井秀世, 高橋和幸編著
請求記号:369/194 配架場所:第1書庫2層

 現代社会は核家族化と生活スタイルの都市化が進んでいる。これにより、 子どもと高齢者がふれあう機会が低下したり地域の行事に参加する機会も 少なくなったり、相対的に人間関係が希薄化が進んでいる。地域の人々とのかかわりが希薄化し福祉的支援が受けにくくなると、社会的問題も発生しやすい。そこで、全国各地で取り組まれている地域福祉の実践活動の事例を集めた。内容は青森県から広島県まで多方面にわたり、ホームレス 支援、精神障害者への援助、寝たきり患者の家族会、児童虐待への対応、 子育て支援、企業の社会貢献、おとぎ話活動など、多くの実践・研究報告を とりあげた。さらに途上国へのNGO教育支援の現状と実際の活動も記した。

住民参加・参画の新しい子育て支援 : 地域ではじまる、地域がつながる / 勝木洋子, 永井秀世, 高橋和幸編著

請求記号:369.4/156 配架場所:第1書庫2層

 子育ては楽しい営みである。子どもは家庭や地域にとって活力となり、おとなの心を癒す存在である。言いかえれば、さまざまな育児の悩みをもつことで親として成長し、地域は親と悩みを共有し解決していく、その過程で地域社会が暮らしやすい環境になっていく。そのようなことが、子どもは社会の宝物であるといわれる 所以であろう。  ところが近年、私たちの社会が便利で暮らしやすくなった反面、わずか数十年で 子どもの育ちが激変している。日本が高度成長を遂げ、経済発展をしたことと、子育てや子どもを取り巻く環境が異なってきたことは誰もが認める事実である。
 このような社会背景を受け、家庭における育児の不安や負担感を和らげるものとして、地域の子育て支援機能が注目を浴びている。実際に地域の子育て支援  活動は極めて多様なものが存在している。そこで、「地域で見守り支援する子育て」の実践事例を収集した。地域における子育て支援の未来像を描くとともに、社会の成熟とひとり一人、対等な責任と関係、住民の視点などをキーワードとしてその情熱を持ち続け、一人ひとりの子どもが自分らしく、最善の福祉の中で羽ばたいてほしいとの願いを込め発刊に至った。