神戸松蔭女子学院大学図書館 今月の展示

「坂の上の雲」  (2009年11月2日〜2009年11月30日)

坂の上の雲

【初出・収録】「産経新聞」夕刊(昭和四十三年四月二十二日〜同四十七年八月四日、一二九六回)連載。
『坂の上の雲』第一〜第六巻(文藝春秋、昭和四十四年四月〜同四十七年九月)、
『坂の上の雲』第一〜第八巻(文春文庫、昭和五十三年一月〜同年四月)収録。
文藝春秋刊全集第二十四〜二十六巻収録。

司馬遼太郎は、この長編について、「ばく然とした主題は日本人とはなにかということであり、それも、この作品の登場人物たちがおかれている条件下で考えてみたかったのである。」(第一巻「あとがき」)と書いています。
 「国家」というのが「自分の藩」のことであった時代から「<日本>という国」に変わった明治。主人公である正岡子規、秋山好古・真之兄弟を軸にしながら物語は展開していくのですが、近代国家の仲間入りをしようとしたこの国が、肩を並べるまでの国民の苦労やその過程が描かれています。
 大きく時代が変わる明治という時代を生き抜こうとひたむきだった、この時代の国民の代表として作者からこの三人が選ばれたのです。司馬さんが作中、この物語の「代表者を、顕官のなかからは選ばなかった」と書いているように、この国を支えているのは、たくさんの無名の人たちなのだと改めて考えさせられる作品です。

 「のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲がかがやいているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。」 (第一巻「あとがき」)

 彼らは坂の上にたなびく一筋の雲のさきに、何をみていたのでしょうか。
この小説は、司馬遼太郎さんが四十代のほぼすべてを費やして完成させた作品です。
松山出身の正岡子規、秋山好古・真之の兄弟を軸に物語は展開し、近代国家をめざす明治の日本が描かれています。

◆「あのな、お父さん。赤ン坊をお寺へやってはいやぞな。おっつけウチが勉強してな、お豆腐ほどのお金をこしらえてあげるぞな。」 (第1巻【春や昔】)
  「お豆腐ほどのお金」とは、豆腐の厚さくらいの札束ということで、「いっぱいのお金」という意味です。
好古が「信坊」といわれていた10歳のとき、父に言った言葉が、この8年後に実現します。この一言のおかげで、真之は親の元で育つことができたのです。
◆真之は10歳ころになると絵もうまくなり、凧絵を描いて仲間の子どもたちにあげていました。「秋山の凧」といえば町中の子どもの評判になり、俳人河東碧梧桐も幼いころ、母親に「秋山の凧を買ってくれ」とせがんだことを記憶しているといいます。 (第1巻【真之】)
◆後年、子規は「筆まかせ」のなかでこの当時の19人の友人について触れ、夏目漱石のことを「畏友」と書き、真之のことを「剛友」と書いています。
 真之が如才のない伊予人にしてはめずらしくいやなことはいやと明確に、時にはにべもなくいうところを畏れていたようです。 (第1巻【七変人】)

司馬遼太郎
1923年〜1996年。大阪市生まれ。
大阪外国語学校(現大阪大学外国語学部)蒙古語部卒業。1948年産経新聞社に入社。
代表的な作品に『梟の城』『竜馬がゆく』『国盗り物語』『菜の花の沖』など多数。その他、『街道をゆく』などの紀行、エッセイも多い。1991年に文化功労賞、1993年には文化勲章を受章。1998年より、財団法人・司馬遼太郎記念財団主催による、文芸、学芸、ジャーナリズムを対象とした司馬遼太郎賞が創設された。
命日の2月12日は「菜の花忌」と呼ばれる。


11月29日(日)からNHKでドラマが放送されます。

〜司馬遼太郎の作品紹介〜
●ひとびとの跫音
長編小説。【初出】『中央公論』(昭和54年8月〜56年2月) 第33回読売文学賞を受賞。 子規没後の、子規をめぐる「ひとびと」の跫音が描かれている。『坂の上の雲』執筆を機に忠三郎と交流のあった司馬が、忠三郎の夫人から葬儀委員長を頼まれる…というところから物語りは始まる。
請求記号: 918.68/319/50

●ロシアについて
【「新潮」1940年】
評論集。【初出】『文藝春秋』(昭和57年1月号〜10月号)
昭和62年(1987年)2月、第38回読売文学賞(随筆・紀行賞)を受賞。
著者は、『坂の上の雲』と『菜の花の沖』を書き、「ロシアとはなにかということを考えつづけたのです」としており、2作の根源であるロシアについて書いた作品が「ロシアの特異性について」である。
請求記号: 918.68/319/53

●「明治」という国家
評論。【初出】平成元年(1989年)10月〜11月にかけてNHKテレビで放映された、NHKスペシャル司馬遼太郎トークドキュメント『太郎の国のものがたり』を改題して本にまとめたもの。『「明治」という国家』(日本放送出版協会,平成元年) この時代に対する司馬の歴史観の集大成ともいえるもの。
918.68/319/54

 (参考文献 志村有弘編 『司馬遼太郎事典』勉誠出版 , 2007.12  請求番号:910.26/1388)

その他の展示資料
本学図書館の蔵書から〜
・秋山真之のすべて 請求記号:289/960
・『坂の上の雲』の秋山好古・真之とその時代 請求記号: 289/961
・秋より高き 請求記号:289/959
・写説『坂の上の雲』を行く 請求記号:210.6/242

図書館所蔵資料以外の展示資料
・『司馬遼太郎の世界』 毎日新聞社
・『子規と真之』 坂の上の雲ミュージアム
・『秋山好古』 坂の上の雲ミュージアム

 

(図書館)