神戸松蔭女子学院大学図書館 今月の展示

「第6回 執筆者は語る」 (2007年6月1日〜2007年6月30日)

本学専任の先生方より図書館へご寄贈いただきました図書を展示いたします。 (2006年9月以降のご寄贈分です。)
「執筆者は語る」と題して、ご自分の著作を紹介して下さいました。
興味を持った図書を読んで、著者の先生に感想を述べてみたり、疑問をぶつけてみてはどうでしょうか?
なお展示している本は、展示終了後の 7月1日より貸出できます。 今すぐ予約しておきませんか?

阿部 としよ 専任講師
『管理栄養士講座 公衆栄養学』
山本茂, 吉池信男編著
建帛社 , 2006.9
請求記号:498.53/276 配架場所:第1書庫2層

『管理栄養士コースで学ぶ! : キャリアデザインのために』

奥田豊子 [ほか] 編著
同文書院 , 2007.4
請求記号:498.1/122  配架場所:第1書庫2層

「管理栄養士講座 公衆栄養学」は出版されるまでに3年を要し、執筆した内容のほとんどを書き直しました。この執筆のためのエネルギーは大変大きなものでした。途中であきらめかけそうになったこともありましたが、私が20年余の間、管理栄養士として一生懸命やってきた学校給食領域の実態や様々な課題等についてなんとしても書きたいという強い信念が私を支えてくれました。編著者の吉池信男先生は国立健康・栄養研究所を代表する研究者の一人ですが、小児科医でもあり管理栄養士に関するほぼ全ての教科領域に精通しておられわが国を代表する先生です。随分昔のことではありますが、私は現国立健康・栄養研究所で国内留学生として研究漬けの生活を送っていたことがありました。その縁で研究や執筆で国立健康・栄養研究所の研究者の方々とご一緒させていただいています。「管理栄養士コースで学ぶ」は健康咀嚼指導士として紹介文をほんの少しだけ書いております。


一丸 藤太郎 教授
『臨床心理面接研究セミナー』
伊藤良子編
至文堂 , 2006.12
請求記号:146/797 配架場所:第1書庫1層

『解離性障害における臨床心理面接関係 −解離性同一性障害を中心にして−』
臨床心理学における研究の基礎となるのは、心理面接関係の一つ一つを綿密に検討していくことであるが、ここでは解離性同一性障害の30歳代の一女性との精神分析的心理療法の経過を振り返り、解離性同一性障害の成因、成り立ち、心理療法の進め方の特徴といったことについて検討した。しばしば指摘されてきたことではあるが本事例でも、解離性同一性障害という正しい診断をするまでにかなりの経過が経っていた。「解離性同一性障害は、存在しない」という偏見からであろう。筆者により解離性同一性障害と診断してからの心理療法は、それぞれの交代人格と治療契約を結び、各交代人格を通じてクライエントその人を理解していくものであった。各交代人格は、基本的にはそれぞれが相互に協力して困難な現実に対処するといったものであった。しかしいくつかの交代人格は、表に現れず、クライエントの適応を脅かしていた。こうした交代人格にどのように対応するかが、今後の問題として残った。


勝村 弘也 教授
『新版 総説旧約聖書』
池田裕 [ほか] 監修
日本キリスト教団出版局 , 2007.3
請求記号:193.1/139 配架場所:第1書庫1層

『新版総説旧約聖書』は、1984年の刊行以来、旧約聖書に関する概説書として高い評価を受けていた『総説旧約聖書』の改訂版です。この書は、神学校や神学部における教科書としても広く用いられてきました。今回、出版された新版は、現在の旧約学の研究水準にあわせた新しい編集方針のもとで執筆者をすべて入れ替え、まったく新しく書き直されたものです。私が執筆を担当しているのは「ヨブ記」の部分だけです。ヨブ記は言うまでもなく世界文学の歴史の中で不動の地位を占めている名作ですが、その思想内容が深淵であるだけでなく、専門家には原典のヘブライ語が超難解なことでも知られています。主人公のヨブは、非難の余地のない正しい生活をおくっていた裕福な家畜飼育者でした。ところが彼は、おびただしい家畜も多くの子供も一瞬にして失い、自分はひどい皮膚病にかかってしまうという設定です。つまり義人ヨブの苦難というのがテーマになっていて、これをめぐる論争が難解な詩文で長々と展開されます。世界には合理的に説明出来ない理不尽なことが多すぎる、神様が世界を支配しておられるというが、もしも神が存在するのならこの神様は間違ったことをしているのではないか。このような疑問を持つ人がおられましたら、私の解説文とともにヨブ記を是非お読みください。


郡司 隆男 教授
『言語の基盤 : 脳・意味・文法・進化』
レイ・ジャッケンドフ [著] ; 郡司隆男訳
岩波書店 , 2006.7
請求記号:801/394 配架場所:第1書庫3層

本書は、Ray Jackendoff 著、Foundations of Language: Brain, Meaning, Grammar, Evolution の全訳である。したがって、郡司は執筆者ではなく、訳者にすぎない。

本書の原著は、索引を入れて500ページ弱の大著であるが、およそ言語に関することで触れられていないことはない。言語学の入門書とは言えないが、必ずしも言語の専門家向けというわけでもなく、自分の頭で、言語とは何か、人間とは何かについて考えたいと思う人向けの本である。

本書での Jackendoff の主張は、乱暴に一言で要約してしまえば、Chomsky を中心とする「主流派」生成文法と袂を分かって、「統語中心主義」を捨てるということである。その結果、音韻論、統語論、意味論の間に重要度の差をつけずに、並列機構としてとらえ、それらの間のインターフェースを中心に人間の文法を考えることになる。したがって、これらの情報を集中的に管理する語彙の役割も重視する。

このような見方になじんでいない人には根気のいる読み物となるかもしれないが、言語に対する見方を拡げたい人にはお勧めの本である。


田中 まき 教授
『伊勢物語古意 : 宝暦九年加藤千蔭写』
[賀茂真淵著]
和泉書院 , 2006.10
請求記号:913.32/37/5 配架場所:第1書庫4層

本書は、江戸時代の国学者として有名な賀茂真淵の『伊勢物語』注釈書『伊勢物語古意』を弟子の加藤(橘)千蔭が宝暦九年(1759)に書写した本を翻刻したものです。これまで『伊勢物語古意』は、孫弟子に当たる上田秋成が寛政五年(1793)に刊行した版本の翻刻(『賀茂真淵全集』所収)によって読まれてきましたが、ここに翻刻した千蔭筆本はそれよりもおよそ35年前に書写された本であり、真淵の稿本を忠実に写したもので貴重な写本と言えます。また、『古意』は真淵が和学御用を勤めていた田安宗武(八代将軍徳川吉宗の次男)の依頼に応えて、宝暦二年頃献上された注釈書で、従来は、その時点で完成したように思われてきましたが、千蔭筆本と他の諸本を比較研究すると、宗武への献上後も改稿が繰り返されていたことが分かります。『万葉集』研究で名高い真淵ですが、『伊勢物語』も終生執着を持って研究していたのです。


春木 孝子 教授
『今を生きるケルト : アイルランドの言語と文学』
京都アイルランド語研究会編
英宝社 , 2007.3
請求記号:930.4/350  配架場所:第1書庫4層

神戸松蔭では外国語科目の英語を教えていますが、もともとの専門は英語の現代詩です。そして一番面白いと思って読んでいるのはアイルランドの詩人たちが書いた詩で、そして、彼らの詩を読む内に、彼らの詩の基底にあるアイルランドの文化、はては言語にまで興味が広がり、今では、アイルランド語で書かれた詩を対象に研究を進めています。 7年前から京都でアイルランド語研究会と詩の研究会が発足し、その研究会のメンバーで出版したのがこの『今に生きるケルト』です。アイルランド語はケルト語派の言語で、汎ヨーロッパ的に存在したケルト人の言語でした。今ではヨーロッパの片隅に細々と生き延びている少数話者言語ですが、古く長い伝統と文化が持つ生命力、自然への畏敬の念、 生と死の考え方、女権の存在など興味がつきることがありません。これからも、もっと研究を深め、継続していきたいと思っています。


溝畑 秀隆 専任講師
『阪神大震災食のSOS : 被災地芦屋の食の記録』
災害と食の会著
エピック , 1996.1
請求記号:369.3/88 配架場所:第1書庫2層

1995年(平成7年)1月17日に発生した阪神・淡路大震災という未曾有の災害時、いわば極限状況の中で人々がいかに食を確保したかの記録である。ボランティアによる炊き出しや援助物資のほか、病院、福祉施設、学校、事業所などでの自助努力、高齢者や幼児、病人の食など、芦屋地区に勤務又は在住する栄養士(行政・集団給食施設・地域・企業)がどのような形で取り組み、被災者にどのように対処したか、その問題点や支援体制の実態について取り上げた。


山内 啓子 専任講師
『異文化理解と食文化 Exploring cultures through food』
山内啓子著
英光社 , 2006.12
請求記号:837.7/241 配架場所:第1書庫3層

これは身近な食材・食事・食習慣等を通して異文化の理解を促進するために作成したものです。身辺で馴染みがあることながら、英語での表現が適切にできないということは結構あります。例えば、日本式に米を「炊く」というのはどのように外国で説明すればよいのでしょうか。boilを用いると「茹でる」を意味して「ごはん」には炊き上がらなくなってしまいます。けれども英国などではまさに米は多めの熱湯でboilして調理し、ザルにあけて茹で上げるのです!日本では「ふっくらして粘りのある」米が好まれますが、世界ではこれは少数派。米粒どうしがくっつかないように苦心する、というのが米の食文化としては多勢なのです。米を一例にしても食文化は様々な異文化と自文化を比較して興味は尽きません。 大学用の英語テキストとして作成したものではありますが、広く一般にも活用できる要素をたくさん込めました。食は人間に欠かせないもの、それにまつわる知識も是非増やしてください。


P.J.マレット 准教授
『Sparks : new writing from Bath spa』
with an introduction by Gerard Woodward ; and an interview with Mo Hayder
Sulis Press , 2006
請求記号:938.7/2 配架場所:第1書庫5層

私は2005−6年にサバティカルで帰国した際に、バース・スパ大学でクリエイティブ・ライティングのコースに籍を置きましたが、「Sparks」はその時のクラスメイト達による作品の選集です。私はこの本の編集者の一人でもあり、また、私の指導教員であったベストセラー作家のモー・ヘイダー女史とのインタビュー記事も載せています。 更に、この選集には私が現在執筆中の「Phosphene」からの抜粋も含まれています。

「Phosphene」(閃光)は、幻想と錯覚、自己の認識と自己探求を題材にした小説です。
語り手であるフランシスは、日本で能力を充分に発揮できず鬱屈した日々を過ごす大学の教員で、いつかは映画を作りたいと考えています。恋人もいない8年間を日本で過ごした彼ですが、自分の教え子でもある美しい、才能あるピア二ストに出会うことによって運命に翻弄されることになります。フランシスは長く書きたいと思いながらも実現していなかった映画の脚本のインスピレーションを彼女、アキコから受けます。けれど、彼はまた彼女に恋愛感情も抱くようになってしまうのです。脚本の中で彼は主役を自分の分身として、彼女との関係の幻想を投影させていきます。話が進むにつれフランシスは映画の中でのストーリーと現実を混同し始め、そしてついには幻想と現実が悲劇となって彼を待ち受けるのです。

'Sparks' is an anthology of writing by my classmates in the Creative Writing programme at Bath Spa University, where I spent my sabbatical year in 2005-6. I was one of the editors of this book and also contributed an interview with my tutor, the best-selling novelist Mo Hayder. The anthology also includes an excerpt from 'Phosphene', the novel I am currently writing.

'Phosphene' is a novel about illusion and delusion, identity and self-discovery. Francis, the narrator is an unfulfilled university teacher in Japan who sees himself as a filmmaker. After eight loveless years in the country, his predictable life is thrown upside down by meeting a beautiful and talented pianist, who also happens to be one of his students. In Akiko, Francis finds the inspiration for the film script he has long been trying to write. But he is also attracted romantically to the young woman. In the script he subsequently writes, he projects his fantasies about their relationship, using the protagonist as his alter-ego. As the story progresses Francis starts to confuse the true situation with what happens in his film, until fantasy and reality become one in the disaster awaiting him.