神戸松蔭女子学院大学図書館 今月の展示

「第4回 執筆者は語る」 (2006年5月1日〜2006年5月31日)

本学専任の先生方より図書館へご寄贈いただきました図書を展示いたします。 (2005.9以降のご寄贈分です。)
「執筆者は語る」と題して、ご自分の著作を紹介して下さいました。
興味を持った図書を読んで、著者の先生に感想を述べてみたり、疑問をぶつけてみてはどうでしょうか?
なお展示している本は、展示終了後の 6月1日より貸出できます。 今すぐ予約しておきませんか?




『心理臨床の知恵』 
河合隼雄 ; 一丸藤太郎 [ほか] 著
新曜社 , 2005.7

「トラウマ」は、今、臨床心理学、精神分析学、精神医学といった精神保健の領域で、一つの大きなテーマである。「トラウマは、肩こりのようなものだ。気にするから、気になるのだ」という人もいる。しかし、幼児期に受ける凄惨な虐待、夫からの暴力、種々の性被害や暴力被害などは、それを体験した人だけでなく、その人と関わるすべての人の人生をねじ曲げてしまう。人、人生、将来への信頼感、希望といった生きていく上で欠かせない感覚も、根こそぎにしてしまう。深刻な心理的・身体的障害も引き起こされてしまう。「トラウマ」を受けた人たちの理解と援助は、私たち精神保健に関わる者にとって緊急の課題である。援助は、一筋縄ではいかないし、われわれが燃え尽きてしまうこともある。本書の『トラウマの臨床心理学』という章で筆者は、トラウマを受けた人を心理学的にどのように理解し、どのように援助するかといったことについて論じた。

一丸 藤太郎 教授




『三好達治と立原道造 : 感受性の森』
國中 治著
至文堂 , 2005.12

『書く場所への旅』
國中 治著
れんが書房新社 , 2005.12


 子供の頃から本を作りたいと思っていた。自分が将来何者になるのか。どんな仕事をして生きていくのか。そういうことは、いくら考えても具体的なイメージが浮かばなかった。だが本を書く自分の姿はいつも容易に想像できたし、この仕事と不可分の苦しみはほとんど想像できなかったから、本を作る人になる、というところに考えが及ぶと、それで満足してしまうのだった。
その後、あちこちよそ見をしているうちに思いがけなく長い時間が過ぎて、大学を卒業する頃、やっと最初の本を出した。詩集である。三好達治の第一詩集『測量船』には多様なスタイルの作品が収められている。それに倣って、主題も語りも異なる詩を放り込んだ。もちろん三好のようにはうまく行かない。こんなことなら立原道造のような、無駄も隙もブレもない抽象的世界を目指せばよかった……。
と、後悔したはずなのだが、懲りずに同じ路線で二冊目、三冊目の詩集を出し、その間に韓国で日本語を教えたり、日本で日本語や日本文学を教えたりするようになっていた。そういう錯雑とした日々の中から、昨年十二月、二冊の詩集でない本が生まれた。一冊は、三好達治と立原道造について論じた本。もう一冊は、外国で日本で家で海辺で山中で「書く」ことに思いを巡らせた本。これらに詰め込まれた言葉が、一瞬でも、読者の脳裡に鮮明な像を描くことを祈っている。

國中 治 教授


『パルダイヤン物語 : 騎士父子の冒険』 

ミシェル・ゼヴァコ著 ; 鈴木 悌男訳
近代文芸社 , 2005.12

 フランスの20世紀初頭に、ミシェル・ゼヴァコという大衆小説家がいる。40代から多くの騎士任侠小説を書き、爆発的に読まれて、その幾つかの作品はのちに映画化、あるいはテレビ放映もされているのに、なぜか、わが国ではまったく紹介されることはなかった。19世紀前半のデュマの人気小説『三銃士』や『モンテ・クリスト伯爵』がわが国でたいそう人口に膾炙しているのに反して、デュマの再来とまで云われたゼヴァコが紹介されないのは、なんとも不公平である、と訳者が思ったことが一つ。
 20世紀フランスの最大の哲学者、小説家でもあり劇作家でもあるジャン・ポール・サルトルが、その幼・少年時代に、《ル・マタン》という新聞紙上連載のゼヴァコの小説を胸躍らせて読んだばかりでなく、50代後半になってもなお、ゼヴァコを愛読し、「パルダイヤンは依然として私の中に住んでいる」と語っているので、ゼヴァコ紹介と『パルダイヤン』の訳出は、サルトル研究には不可欠だ、と訳者が考えたことが一つ。
 以上の二点が本書訳出の動機となった。この本は、16世紀中葉、宗教戦争の前夜のフランス宮廷を舞台とし、史上悪名の高いカトリーヌ・ド・メディシス王妃を中心とする旧教徒派と、後のブルボン王朝の祖ともなるジャンヌ・ダルブレ王妃を中心とする新教徒派の対立と陰謀の渦の中で、傭兵の身分で、正義の味方でもある剣士(騎士)父子パルダイヤンが、恋あり、涙あり、危機ありの、まさにはらはらドキドキの波瀾万丈の物語を描いている。
 史実に名高い王侯貴族がたくさん実名で登場するので、フランス王朝と文化に興味あるムキには、格好の読み物といえるかも知れない。

鈴木 悌男 教授




『英語のテンス・アスペクト・モダリティ』
成田義光 ; 長谷川存古 共編
英宝社 , 2005.10

この論文集はテンス、アスペクト、モダリティに関する論文を16篇集めたものです。テンスとは現在、過去、未来というような時制のことです。アスペクトとは、ある事態が「進行している」、「完了している」のように事態の有様のことをいいます。モダリティとは話し手のある事態に対する確信の程度や、曖昧さなどを表すものです。私の「“ている”と現在完了のパズル」という論文は、中学校で現在完了形を習った時以来の素朴な疑問がもとになっています。英語の先生が「現在完了とは今に心をおいて、過去のことを見るのだ」というような説明をされたのですが「現在に心をおいて、過去を見る」とは結局どのようなことなのかさっぱり分からず、「ごまかされた」というような釈然としない気分でした。英語の現在完了についての疑問は高校生になっても大学生になっても残りました。今回、この論文で自分自身では少しは答えに近づいたのかなと思っています。 

濱本 秀樹教授




『住まいと社会』(図解住居学 ; 4) 

図解住居学編集委員会編
彰国社 , 2005.11

 「住まいと社会」は、「図解住居学」全6巻の第4巻にあたります。「住まいと社会」の内容は、住まいを社会的観点から見てみようということですが、その中で私は「住宅供給と居住地の再生」という章を担当しました。
戦後の高度経済成長期においての大量生産(マスハウジングといってますが、nLDKなどのマンションを大量に供給)による団地やニュータウン開発はこの1970代後半には終わりをつげ、住宅供給のありようは様変わりしています。現在は、これまで供給されてきた膨大な住宅団地の再生、「負の遺産」といわれる木造密集地域での再開発、都市部でのコミュニティ形成、家族の変容・高齢化・少子化、都市景観などをどう考えどう対処するかが今後の住宅供給にまつわる主要テーマです。このような中から、最初の二つのテーマと神戸での震災復興での住宅供給をあわせて3点をピックアップしてその概略を述べました。難しいことは書いていませんので御一読を、何か役に立つかも知れません。


 増永 理彦 教授





『ことばとイマージュの交歓―フランスと日本の詩情―』 

宗像 衣子著
人文書院 , 2005.6

   本書は、19世紀フランス象徴派詩人マラルメの文芸世界を要にして、近現代の詩人たち画家たちにおけることばとイメージの響き合いを探究したものです。彼らの創造意識のなかに、ジャポニスムにかかわる芸術世界を見出し、日本文化における自然観や、自然に融合する創造主体のあり方などを跡づけました。 
 このようにして、芸術諸ジャンルの多様なつながりから東西文化の緊密な響き合いを辿って、抒情と抽象が交錯する詩情の時空を浮き彫りにすることを試みました。
 対象とした芸術家たちは多岐に及びます。象徴主義からシュールレアリスムへ、ヴェルレーヌ、アポリネール、ミショー。創作の共有の姿を、エリュアールとピカソ、ゴッホとルネ・シャールに。そして、ジャンルを跨る創造意識を、ビュトールとゴッホ、ゴンクールとロチ、ブラックとバルトから考察。そして彼らに日本の芸術や日本文化への関心を見て、蕪村とマラルメを、ジャポニスムの地平において検討しました。
 以上、東西文化の交流のなかでの芸術諸ジャンルの深い関わりが、現代文芸と現代芸術を生み出す原動力のひとつとなっていることを、19世紀世紀末文化の潮流の意義として考察しました。


宗像 衣子教授





『ピレボス』(西洋古典叢書) 

プラトン著 ; 山田 道夫訳
京都大学学術出版会 , 2005.6

   プラトン(Platon、紀元前427年−347年)は、ほぼ半世紀にわたる執筆活動と高等教育研究機関アカデメイアの創設とによって、本当の意味ではじめて哲学という学問を確立し制度化した古代ギリシアの哲学者です。彼は80歳で「書きながら死んだ」と伝えられ、紀元前1世紀のローマの学者トラシュロスが校訂編纂した全集には若干の偽作を含む36編の作品が含まれていました。プラトン研究の伝統はアレクサンドリア時代、ローマ帝政期、ビザンチン、西欧中世を経て絶えることなく、15世紀イタリアルネッサンスの学者フィチーノによるラテン語訳は近代の高度なプラトン研究の出発点となり、特に19世紀ドイツにおける古典文献学の隆盛によって、今日のプラトン研究の文献学的基礎となる数多くのテクストが出版されました。古典古代の著作家のなかで、公刊されたその著作のすべてが二千数百年の時を経て今日まで伝存し読み継がれているのは、プラトンただ一人だと言ってよいでしょう。『ピレボス』は最晩年のプラトンが、最善の幸福な人生の要件とは何かを問うて、快楽をめぐるさまざまな考察と徹底的な快楽主義批判を展開したソクラテス的対話篇です。私の本は岩波版プラトン全集の田中美知太郎訳以来三十年ぶりの新訳で、解説・補註・テクスト註はやや専門的ですが、本文ではソクラテスの対話の楽しさと哲学的論究の醍醐味を十分に味わえってもらえるものと自負しています。


山田 道夫教授