神戸松蔭女子学院大学図書館 今月の展示

古英語・中英語文献の宝庫EETS (2004年6月21日〜7月31日)

 ここに展示したのは、古英語・中英語の文献として最も重要な初期英語文献協会(Early English Text Society、略称EETS)の刊行物である。
 19世紀初頭からの印欧語比較言語学の興隆と共に、初期英語の重要な写本を活字にする必要性が痛感されるようになった。また、19世紀中頃に歴史的原理に基づく『新英語辞典』(A New English Dictionary、のちの『オックスフォード英語大辞典』、略称OED)の計画が始まったとき、初期英語の用例提供のために信頼できるテクストを出版することが急務であるとされた。
 そこで上記の協会が創設され、1864年に最初の1冊が刊行されたのである。『新英語辞典』は1933年に完成したが、その後もEETSの出版活動は続けられ、これまでに500冊近くが刊行されている。その中には、詩や物語などの文学作品以外に、讃美歌集、祈祷書、説教集、聖者伝、教会会計帳簿、ギルド法令集、裁判所記録、年代記、英語ラテン語単語集、料理書、食事作法書、手紙、遺言状など、多種多様な文献が含まれていて、古英語・中英語研究のみならず、英国史やその他の研究にも多大な貢献をしてきた。
 @は古英語の代表的叙事詩 『ベオウルフ』(Beowulf)で、左右のページに手写本と活字本を並置した版である。この写本は10世紀頃に作られたものであるが、1731年に火災に遭い、周囲が焼けこげている。写本の1行目は大文字ばかりで、HWÆT WE GARDE (= What! We Spear-Danes’)と書かれており、古い北欧のルーン文字(runes)の流れを引くPのような文字(wynと呼ばれ、wに相当する)や、AとEのくっついたashと呼ばれる合字も見られる。
 Aは13世紀前半の『梟と小夜鳴き鳥』(The Owl and the Nightingale)という2羽の鳥の論争詩で、左右のページに2つの写本を配したファクシミリ版である。両写本とも書き出しはIch was in one sumere dale (= I was in one summer dale)と読めるが、Ich のIは何行にもわたる大きな飾り文字で書かれている。
 Bは14世紀後半の『真珠、清純、忍耐、ガウェイン卿』(Pearl, Cleanness, Patience and Sir Gawain)という4つの詩の写本の中の『清純』の挿絵である。ノアの方舟の図で、ノア夫妻と息子3人と嫁2人が描かれている。右端にもう1人の嫁を描くはずのところが、未完になっている。
 Cは『シーリー家書簡集』(The Cely Letters)で、1479年8月12日の手紙である。ブルゴーニュ公とフランス王との戦闘の伝聞をリチャード・シーリーが家族に書き送っている。冒頭のI grete you wyll (= I greet you well)は、当時の手紙の書き出しの決まり文句である。
 なお、上掲の4書を含む500冊近くのEETS刊行物は、すべて本学図書館所蔵。

(英語英米文学科 三浦常司)